-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
なぜ金融危機を予測できなかったのか
今回の金融危機で被った損失を計算しながら、多くの投資家がこう自問しているに違いない。「どうしてウォールストリートはこんなひどい状況になってしまったのだろう」「複雑なモデルの何が間違っていたのだろうか」
2007年11月、まだ金融危機によって株式市場が大打撃を被る前、あるコメンテーターが『フィナンシャル・タイムズ』紙に、次のような一文を寄せていた。「ウォールストリートが、リスク・マネジメントで大失敗をしでかしてきたのは明らかだ」
もちろん、リスク・マネジメントがうまくいっていても、金融機関が大損害を被る可能性はある。要するに、彼らはリスク・テーキングを伴うビジネスに身を置いている。
リスク・マネジメントに失敗した場合、基本的に6つのパターンのいずれかであり、今回の金融危機では、そのほぼすべてが見られた。リスク・マネジメントに必要とされるデータや評価基準が問題の場合もあれば、さらされているリスクを見極め、これを伝達する方法に起因している場合もある。
たとえ好況下でも、金融リスクを完璧に管理することは難しい。本稿では、リスク・マネジメントの失敗を招く6つのパターンについて詳しく説明する。
リスク・マネジメントの落とし穴
リスクを効率的に管理するには、適切なデータと評価基準を選び、すべての変数がどのように機能し、関連しているのか、その仕組みをはっきりと理解しなければならない。リスク・マネジャーが日常的に犯している過ちは、主に次の6つである。
1. 過去のデータに依存する
リスク・マネジメントのモデリングは過去に基づいて予測するものだが、ここ数十年間で金融分野のイノベーションが普及したことで、判断材料として過去のデータは完全とはいえなくなった。
過去のデータは、住宅価格の下落による影響を予測するうえで、ほとんど役に立たなかった。なぜならそこには、サブプライム・ローンの大半が未払いで、しかも市場が低迷していたという時期のデータは存在しないからだ。
2. もっぱらVaRで評価している
多くの金融機関が日次でリスクを評価している。そこでは、資産は即売却可能で、その日のうちに損失の拡大を食い止められるという前提のため、自社のリスク・エクスポージャーは過小評価されている。
金融危機に伴い、証券市場では流動性が大きく失われ、企業は数週間から数カ月にわたって、ポジションを動かせなくなる。
3. 予測可能なリスクを見落とす
リスク・マネジャーは、さまざまな種類のリスクを見落とすだけでなく、リスクを生み出すことさえある。
ロシアの投資家たちはロシアの銀行と一緒に、ルーブルの下落リスクをヘッジしようとしたが、銀行システムへの打撃によって銀行の債務処理能力が脅かされる可能性を忘れていた。
4. 隠されたリスクを見落とす
意図的な場合もあれば、そうではない場合もあるが、リスクを引き受ける責任者がリスクを報告しないことが多い。このように報告されずに放置されるリスクは拡大傾向にある。
トレーダーたちがみずから生み出した利益については、その分け前にあずかり、しかも損失を負担しなくてもよいのであれば、リスク・テーキングするのはもっともであり、リスクが監視されていないほうが好都合なのだ。
5. コミュニケーションが下手である
リスク・マネジャーが明確な情報を伝達しなければ、リスク・マネジメント・システムがリスクを未然に防止することは難しい。
スイスのUBSは、きわめて複雑な方法によって、しかも間違った相手に向けて、サブプライム・ローンや住宅関連のリスク・エクスポージャーを説明しようとした。
6. リアル・タイムでリスクを管理していない
株式市場における日々の変動に応じて、リスクは急激かつ急速に変化する可能性がある。
バリア・コール・オプションを保有しているマネジャーが、リスクを始終チェックしていないとすると、適切にヘッジできない可能性が高い。
[失敗(1)]
過去のデータに依存する
リスク・マネジメントのモデリングでは通常、過去のデータに基づいて、あるリスクが顕在化する確率を予測する。たとえば、あなたが2006年の時点で、ある銀行のリスク・マネジャーを務めており、翌年には不動産価格が急落するかもしれないという不安を抱いていたとしよう。銀行の経営者であれば、不動産価格のリスク・エクスポージャーをどれくらい見積もるべきかを判断するには、価格が急落する確率はどれくらいで、それによってどれほどの損失を被るのかを把握していなければならない。