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過酷な状況において何を学べるのか
あなたのこれまでの輝かしいキャリアのなかで、とりわけ波乱に富み、試練に直面していた時を思い出してみてほしい。つらい毎日だったとはいえ、その苦しさから多く──それらは財産といえる──を学んだことだろう。実際、時が経ち、当時の記憶もぼやけていくなか、試練と戦い、たえず緊張していた、あの懐かしい過ぎ去った頃にもう一度戻りたいとさえ思うかもしれない。
では、権力に餓えたシャイフ(アラブの部族長)、好戦的な聖職者、信用の置けない協力者に囲まれながら、数え切れないほどの部族や民族がひしめく世界に送り込まれたら、あなたはどうするだろう。しかも、イスラム教シーア派の強硬な反米指導者ムクタダ・サドル師の手下が発射したロケット推進式手榴弾や迫撃砲によって、いままさにオフィスが攻撃されようとしていたら──。
これが、ローリー・スチュワートが選んだ運命であった。彼は、アメリカが主導したイラク進攻から、2004年にイラク暫定政権に統治権限が委譲されるまでの間、連合国暫定当局(CPA)で広範囲にわたり、懸命に、また臨機応変にリーダーシップを発揮した人物である。彼とCPA代表団の同僚たちはイラクの各県に散開し、治安の安定化と民主的な制度の制定に向け、その準備に尽力した。
我々はいまだからこそ、それがどのようになされたのかを知っている。スチュワートの波乱万丈の旅は、難局に直面したリーダーが学ぶべきカリキュラムの宝庫といえる。
HBRのシニア・エディター、ルー・マクレアリーがマサチューセッツ州ケンブリッジで彼にインタビューし、彼は副知事としてイラク南部のマイサーン県とジーカール県で過ごした日々について語ってくれた(図表「ローリー・スチュワートの足跡」を参照)。

いわく、現地での経験によって、敵味方を問わず、他者を理解する洞察力が磨かれたという。そして、代表団の一員に求められる高度な技術のみならず、理想と現実のバランスをどのように図ればよいのかを学んだ。
スチュワートほどの若さで、これほど多岐にわたる経験のある人物というのはなかなか想像しづらい。彼はスコットランド人だが、スコットランド訛りの喉音[注1]はなく、その経歴は、歴史家にして外交官、ジャーナリスト、兵士、作家と、実に多彩である。