プロフェッショナルには行動規範が不可欠

 ここ10年の間に、ビジネスの信頼と自己監視に関する制度は広範にわたって崩壊し、経営者は法に忠実な存在であるという認識は失われた。

 社会の信頼を回復するには、ビジネス・リーダーたちは、株主への責任を果たすこと以上に、組織内の管理人としての義務を果たすことに、一市民として、また一個人として尽力するに当たり、みずからの役割について見直す必要がある。言い換えれば、経営者という仕事をプロフェッショナル化する時が訪れているといえる。

 真のプロフェッショナルには行動規範があり、そのような規範の意味と社会的意義は正規の教育のなかで教えられる。そして、これらのプロフェッショナルのなかから信望の厚い人物たちで構成される職能団体が、コンプライアンス(遵法義務)を監視する。

 プロフェッショナルたちはこのような規範を通じて、自分たち以外の社会構成員との間に暗黙の社会契約を交わす。つまり、「この重要な職業分野を管轄・統制することを信じて任せてください。我々は、この信任された仕事を優れて遂行できる能力を身につけているだけでなく、高い基準と誠実さを持って行動します」と約束するのだ。

 このように規範を監視する組織が正しく機能している職業分野では、道徳的行動が職業アイデンティティ──大半の人たちがけっして壊したくない自己イメージ──の一部となっており、その結果、不正行為が抑制される。

 プロフェッショナル・マネジャーという考え方は、取り立てて目新しいものではない。100年前、大学によってビジネススクールがアメリカで創設された時、大きな期待を持って登場したものである。

 当時、組織内起業家の草分け、つまり学者や先見性を備えたビジネス・リーダーたちは、大企業の台頭は既存の社会秩序に挑戦するものと見た。大企業が株式を公開し始め、その結果、所有と統制が分離されると、株主や労働組合、官僚など、さまざまなステークホルダーがこぞって、この強力な新しい企業体に関与する権利を主張した。すると、別の権利主張者、つまり経営者という新たなグループが、公開企業を統制する権利は自分たちにあることを正当化するためにビジネススクールを考案した。

 経営者たちがこの要求を通すために考えた戦略こそ、ビジネススクールの普及を推し進める人たち──彼らは、科学、専門的職業、アメリカにおける新しい研究機関としての大学という「革新の時代(プログレッシブ・エラ)」の3要素を考えた──と手を組むことであった。