バトンタッチの成否を分けるもの

 その子会社は窮地に陥っていた。本社経営陣は立て直しのために、まだ若いが、申し分のない経歴の持ち主を、マーケティング担当バイス・プレジデントとして他業界から迎え入れ、自由裁量を与えた。

 彼は、ブランド・マネジメントの考え方に従ってマーケティング部門を再編すると共に、営業部門をてこ入れし、新しいマーケティング戦略を立案した。しかしそのかいもなく、営業利益率はさらに低下し、9カ月後、彼は職を失った。

 別の企業でも、親会社が大幅な赤字に苦しむ子会社を再建すべく、同じく他業界からマネジャーを招聘し、大きな裁量を与えた。この人物もまた、ブランド別に新しいマーケティング戦略を考えた。すると、1年もしないうちに、この子会社の営業利益率は改善し、3年のうちに黒字転換を果たして、売上げは倍増した。

 一見する限り、これら2つの事例はとても似ている。どちらの新任マネジャーも30代の半ばで、業界経験はない。そして、同じようなアプローチで大規模な改革に着手した。また、どちらの経営陣も難物であった。しかし、一方は成功し、他方は失敗した。いったい何が違っていたのだろう。

 この質問に答えるには、これら2人の新任マネジャーが直面した状況、2人の職歴、そして彼らの「新たな任務に当たる(テイク・チャージ)プロセス」について、より深く調査し、検証する必要がある。

 世間では、劇的な話ばかりが取り上げられるが、同僚のジョン P. コッターらの調査によると、そのような例に限らず、ゼネラル・マネジャーは40代後半までには3~9の管理職ポストを経験しているという[注1]

 ただし、管理職の経験がいかに豊富でも、個々の状況はそれぞれ違っており、各マネジャーも一人として同じではないため、新たな任務に当たるプロセスを一般化することは難しい。

 我々が14件のバトンタッチ事例について調査したところ、すべての事例に共通する課題が見つかった。またこれらの課題に影響を及ぼし、新任マネジャーの成功と失敗を左右する要因も見えてきた(図表1「新任マネジャー14人の例」を参照)。