不透明な時代に多様なチームをつくることが難しい理由
Juan Moyano/Stocksy
サマリー:近年の不安定な経済や社会状況を受け、従業員は無意識に自分と似た同僚とつながりたいという傾向が強まっている。こうした現象は、均質的なグループを生み出すことにつながり、多様な考え方に触れる機会を制限し、結... もっと見る果的にはイノベーションやコラボレーションを妨げるおそれがある。本稿では、こうした従業員の同類志向を示す研究結果を解説するとともに、それを是正する方法を紹介する。 閉じる

不安定な社会では同類志向が強まりやすい

 新型コロナウイルスによるパンデミックや戦争、社会騒乱、物価上昇など、近年の大規模な出来事は、職場における従業員の主体性を深く揺さぶってきた。このような時代において、従業員は「自分にはどうにもできない」という感覚にどう対処しているのだろうか。

 米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された筆者らの研究では、懸念すべき影響が明らかになった。職場のストレスであれ、不安定な経済動向であれ、世界的な危機であれ、自分のコントロールが及ばない状況に直面した時、従業員は無意識に自分と似た同僚とつながろうとする場合がある。このように同類に惹かれる現象は、均質なグループを生み出すことにつながり、多様な考え方に触れる機会を制限し、究極的にはイノベーションやコラボレーションを妨げるおそれがある。社会全体で見ると、これは最近の社会の分断(人種や宗教によるものから政治的二極化まで)が激しくなっている理由を、少なくとも部分的に説明している可能性がある。

無力感が職場の分断をもたらす理由

 世界60カ国9万人超を対象に、11の相関研究と実験を実施したところ、従業員は自分にはどうにもできないと感じると、自分と似ている(人種、宗教、社会経済階級、性格など)人に引き寄せられる傾向が強まることがわかった。

 たとえば、60カ国の回答者から得たデータを分析したところ、自分の暮らしを変える力がないと感じる人たちは、人種や宗教や言語が異なる人たちの近所に住みたくないと答える可能性が高かった。古典的な経済研究で、自分と似ている人をゆるやかに好む傾向でさえ、時間が経てば極めて分断された社会を生み出しうることが示されていることを考えると、この発見は極めて重要な意味を持つ。

 筆者らは大学生を対象にした対面の実験で、まず全員に別の二人の学生と組んで、オンライン授業を増やすことをどう思うか話し合ってもらった。その上で、2人の意見が自分の意見とどのくらい似ていたかを評価してもらった。次に、参加者を無作為に2つのグループに分けた。一方は、自分を取り巻く状況をコントロールできるという感覚が強いグループで、もう一方は、自分ではどうにもならないという感覚が強いグループだ。無力感が大きいグループには、対になった記号から正しい記号を選んでもらった後に、その作業の成績にまったく基づかないフィードバックを与えることにより、無力感を植えつけた。もう一方のグループは、単純に自分が好きな記号を選んでもらうことで、自分のコントロールが及ぶ感覚を持たせた。

 このように、自分で状況をコントロールできるかどうか感覚を操作したうえで、「大学に提出するオンライン授業に関する提案書」を一緒に作成するパートナーを、二人の候補者から一人選んでもらった。すると、無力感を高められた学生は、そうでない学生と比べて、自分と似たような意見を持つパートナーを選ぶ可能性が大幅に高かった。これは、自分にはどうにもならないという感覚を経験すると、同じような考え方の人を仕事のパートナーに選ぶ可能性が高くなり、異なる視点にさらされる機会が減少することを示唆している。

 正社員を対象とした別の研究でも、無力感を抱える人は、性別や性格や価値観において自分と似た同僚を好む傾向が強かった。これは、職場で自分にはどうにもならないという感覚を抱く従業員は、多様性のある職場環境への認容度が低く、その職場のインクルージョン(包摂性)と創造性が低下する可能性があることを示している。

 この発見に基づき、さらなる影響を調べると、自分にはどうにもならないという意識を原因とする同類志向は、多様性のあるチームを形成する意欲を低下させることがわかった。また、どのグループに助言を求めたいかを聞くと、無力感の高い人たちは、より均質な同僚グループを選び、学歴や職歴が自分と似ている同僚を好んだ。