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あなたの組織はインクルージョンを育んでいるか
従業員が強い帰属意識を抱くことや、自身が会社に合っていると感じることは、組織において非常に重要な要素である。こうした意識を持つ人材は、より熱心に仕事に打ち込み、イノベーションを発揮し、さらに生産性も高い。そのような深いレベルのインクルージョン(包摂性)を育むために、企業は温かく友好的な文化を醸成しようとする。たとえば、従業員リソースグループを支援したり、ハッピーアワーやオフサイトミーティングなどのイベントを開催したりする。だがハッピーアワーでは、たとえ理想的な状況であっても、真に深い意味で仕事への意欲をかき立てることはできない。本当に重要なのは、目の前の仕事に貢献できていると、実際に従業員が感じるかどうかなのだ。
筆者らは、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の従来のアプローチは不完全だと考えている。そして、その不完全さが一因となって、現在の全米における反発を助長していると考えている。つまるところ、インクルージョンとは「温かさや心地よさ」ではない。インクルージョンとは、チームの一人ひとりが十分に貢献できる環境をつくることだ。それはミーティングで、マネジャーがチームメンバーをサポートし、同僚が互いに協力する時に生み出される。インクルージョンは、ブレインストーミングや意思決定、設計、顧客へのサービス、サプライヤーとの協力、計画立案に関わる。これほど会社の損益や従業員体験を大きく左右するものはない。
従来のDEIのプログラムやポリシーは、あまりにも否定的な面に焦点を当てすぎていた。一部のDEIポリシーはむしろ、一つの集団を他の集団と対立させて分断を煽っている。「それを言うのはやめろ」「あれを廃止しろ」「偏見を持つな」と。すると、人々は過度に警戒し、間違ったことを言ったりしたりするのではないかと不安になって、関わろうとしなくなったり、腹を立てて反発したりする。皮肉なことに、そのようなタイプのDEIの取り組みは、インクルージョンを損ない、組織の目標から逸れていく。
だが、よりよい方法がある。模範的なDEIの取り組みは共通の目的、たとえば優れた商品やサービスをつくることや会社を成長させることなどを中心に据えて、人々を一つに結びつける。もちろん、否定的な行動や偏見に基づく行動を発見して抑制することは大切だ。しかし、そのためには肯定的なアプローチで一体感を生み出すことが、時として非常に有効な方法となる。最も効果的なDEIの取り組みは、組織のミッションと深く結びついている。そして、共通の目標に向かって励む一人ひとりの従業員をサポートする。
筆者らの研究は、最も効果的なアプローチの一つが「マイクロインクルージョン」(小さな包摂)への注力であることを示している。マイクロインクルージョンとは、実際の業務プロセスにすべての人を巻き込む、小さな、しかし意識的な行動である。マイクロインクルージョンは成長をサポートし、傾聴し、貢献を称賛し、互いを尊重し、ともに困難を乗り越えることである。誰もが何らかの貢献をし、認められ、評価され、感謝されていると感じる時、チームは最大限の効果を発揮する。それがグループ内の帰属意識や尊重の意識を育て、チームと企業を成功へと導く。
本稿ではまず、マイクロインクルージョンの効果に関する筆者らが最近行った研究の一部を要約して紹介する。次に、どのようにしてマイクロインクルージョンの文化を企業で醸成するかについて、指針を提供したい。
マイクロインクルージョンの力
筆者らは最近、シリコンバレーのテクノロジー企業の従業員897人を対象に大規模な実験を行った。この研究から、マイクロインクルージョンがどれだけの影響を与えうるかが明らかになった。
実験では、ある作業グループのメンバーになることを参加者に想像してもらった。第1のグループでは、そのグループで起きるかもしれない対人相互作用について何も説明しなかった。その後、同グループで予想される帰属意識と適合感を測定した(どの程度、自分が尊重され価値を認められていると感じるか、その会社で自分の将来が見えるかどうか)。結果として、女性は男性よりも予想される帰属意識と適合感が低かった。
次に、別の2つの作業グループのメンバーになることを想像してもらい、今度は対人相互作用についても説明した。第2のグループでは、従業員がアイデアを共有しようとするとマネジャーがさえぎり、後になって、そのアイデアがあたかも自分のものであるかのように発表するというマイクロエクスクルージョン(小さな排除)があると言及した。第1のグループと比べると、男女ともにこの作業グループのメンバーになることを想像すると嫌な気分になったが、ここでも女性のほうが男性よりも帰属意識と適合感が低かった。
第3のグループについては、マネジャーが従業員のアイデアを引き出してサポートし、貢献する機会を提示するような、マイクロインクルージョンを特徴とする作業グループのメンバーになることを想像してもらった。今度は、男性も女性も予想される帰属意識と適合感が向上した。だが最もメリットが大きかったのは女性だった。第1のグループに比べて、男性の帰属意識と適合感が23%向上したのに対し、女性は35%向上した。この増分によって、ジェンダー間の格差はなくなった。また、そのような作業グループに入ったら驚くだろうという報告は、男性よりも女性のほうが多かった。誰もが自分も職場で貢献している一人であると感じたいものだが、少なくともこのテクノロジー企業では、女性はそれを期待できないと感じていた。