企業戦略の本質を見極める時

 企業戦略、あるいはコングロマリットの全社計画がもてはやされているが、毛嫌いされてもいる。前者の理由は、CEOたちが1960年代前半から多角化に夢中になっていることにある。また後者の理由は、企業戦略とは何かということ、さらにはどのように策定するかに関する共通認識がまったく存在していないためである。

 コングロマリットの戦略は2種類ある。一つは「事業戦略」(あるいは競争戦略)であり、もう一つは「企業戦略」(あるいは全社戦略)である。事業戦略は、その企業が参入している各産業分野において、いかに競争優位を生み出していくかをテーマとしている。一方企業戦略は、2つの異なる問題をテーマとしている。すなわち、どの事業分野に参入するかという問題と、さまざまな事業単位をどのようにコントロールするかという問題である。

 企業戦略があるからこそ、企業という全体は、事業単位という部分の総和以上の存在になることができる。しかし、企業戦略のこれまでの歴史を振り返ってみると、凄惨の一語に尽きる。

 私は、アメリカの大手コングロマリット33社が1950年から86年にかけて進めてきた多角化について調査した。その結果、ほとんどの企業において、買収事業を継続させるよりも、途中で手放してしまう事例のほうが多いことがわかった。大半の企業戦略は、株主価値を生み出さず、それを浪費していたのである。

 企業戦略を再考することが、いまほど痛切に求められている時はない。企業を買収して分割する乗っ取り屋は、間違った企業戦略の下に暴利をむさぼっている。ジャンク・ボンドによる資金調達や企業買収が当たり前になったことで、どんなに優良な大企業でも、いまや乗っ取りの危機と無縁ではいられない。

 過去に多角化で失敗した企業のなかには、大規模なリストラクチャリングに着手するところがある一方、何も手を打たないところもある。その反応が何であれ、企業戦略という問題がつきまとう。

 リストラクチャリングを断行した企業は、過去の失敗を繰り返さないために、次は何に気をつけなければならないのかを判断しなければならない。手をこまぬいている企業は、みずからの脆弱さを自覚しなければならない。つまるところ、生き残るには「企業戦略の本質」を理解する必要がある。

企業戦略の成否はどのように評価すべきか

 企業戦略は何をもって成功といえるのか、そう問われると目が踊ってしまう。なぜなら、入手できる証拠だけでは、企業戦略の成否を納得できるように説明できないからだ。この問題に関する研究のほとんどは、株式の時価総額で企業合併の規模を測定し、合併が発表された直前と直後の株価の推移を比べることで成否を判断しようと試みている。

 これらの研究では、資本市場は合併について、中立な立場を取る、あるいは多少過小評価しており、おそらく深刻な懸念材料にはならないと結論づけている[注1]。しかし、資本市場の短期的な反応を見ることが、多角化の長期的な成否を占う適切な基準とは言いがたい。それに、プライドの高い企業経営者たちが、このような方法で企業戦略の成否を判断するなどとは、だれも思わないだろう。

 長期的な視点からの多角化戦略の研究は、ある企業戦略が成功したか失敗したかを判断するうえで、はるかに説得力に富んでいる。