株主のロイヤルティを高める「プロファイリング」4つの観点
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サマリー:企業のIR活動が活発化しているにもかかわらず、投資先企業に対する株主のロイヤルティは低下している。この低下により、企業は迅速なリターンの提供を求められ、経営陣の戦略立案と実行が一層複雑になっている。多く... もっと見るの企業のIRがうまく機能していない主な理由は、すべての株主が同じ選好を持つと見なしがちであることにある。その結果、異なるタイプの投資家を効果的に取り込むための適切なカスタマイズが欠如している。 閉じる

株主のさまざまな選好を理解しなければならない

 企業は株主のロイヤルティを高めるため、投資家向け広報(IR)にますます力をそそいでいる。CEOがIR活動に割く日数は年間平均15日で、その職責の幅広さを考えれば特筆すべきことだ。全体として上級管理職がIRに費やす日数は年間44日で、CFOが最も多い23日、その他の幹部は平均6日である。

 企業のIR活動が盛んになっているにもかかわらず、株主の保有期間は短くなっており、投資先企業に対するロイヤルティは低下している。世界経済フォーラムによると、株式の平均保有期間は2020年6月時点でわずか5.5カ月、1950年代後半のピーク時の8年から激減している。株主ロイヤルティの低下は、投資先企業に迅速なリターンを提供しなければならないというプレッシャーを与え、経営陣による企業戦略の立案と実行を複雑にしている。多くの企業において、現在の株主エンゲージメントは効果的でないようだ。一方、株主ロイヤルティを高めることは極めて重要で、ロイヤルティの低い株主は株価の乱高下を招き、経営陣の効果的な戦略的意思決定と実行能力を損なう。

 なぜほとんどの企業のIRはうまくいかないのか。その主な理由は、企業はすべての株主が同じ選好を持つと見なしがちで、その結果、さまざまなタイプの投資家を効果的に取り込むために必要なカスタマイズが欠如しているからだ。企業が、株主プロファイリングに顧客プロファイリングと同程度の労力を割けば、株主エンゲージメントは大幅に向上し、株主ロイヤルティも強固になるだろう。360度の株主プロファイリングを導入すれば、よりターゲットを絞った、個別化したエンゲージメント戦略が可能になるにもかかわらず、企業はそれをしていない。

株主プロファイリングとは

 株主プロファイリングとは、企業の主要株主の意思決定パターンや行動データを分析し、詳細な情報を作成することだ。その主な目的は、株主の選好を理解することであり、企業はそれに応じてIR活動を調整し、最終的に株主ロイヤルティを高めることができる。

 株主プロファイリングは、株主や投資家のインテリジェンスとは異なる。株主インテリジェンスは、株主構成の増減を監視するジョージソンのサービスのように、企業の株主ベースの変化を追跡することに重点を置いているのに対し、株主プロファイリングは、株主の選好を深く理解することを重視している。その目的は、現株主のロイヤルティの向上だけでなく、カスタマイズされたエンゲージメント戦略を通じて、ロイヤルティの高い潜在的な株主を獲得することにある。

 小売り大手のターゲットが2023年に直面した課題は、株主プロファイリングの重要性を浮き彫りにしている。政治的に保守的な投資家向けのファンド、アメリカン・コンサバティブ・バリューズ ETF(ACVF)は、LGBTQをテーマにしたターゲットの商品が保守的な価値観と相反する「ウォーク・アジェンダ」に該当するとして、同社の株式を売却し、同社をブラックリストに掲載した。この例は、投資家の選好との不一致が、いかに評判や財務の悪化につながるかを明確に示している。強固な株主プロファイリングを実施すれば、ターゲットはこのような反応をより的確に予測し、投資家の多様な価値観を反映した意思決定を行うことができたはずだ。

株主プロファイリングのステップ

 株主プロファイリングの実施は、株主に関する情報を収集することから始まる。機関投資家は米国のほとんどの上場企業の大株主であるため、株主プロファイリングはこれらの投資家を優先すべきである。機関投資家に関する公開データは豊富にあり、容易に収集できる。これらの情報を統合することで、企業は包括的な360度投資家プロファイルを作成し、エンゲージメント戦略を効果的に導くことができる。

どのように投資しているか

 運用資産が1億ドルを超える機関投資家は、各四半期終了後45日以内に米証券取引委員会(SEC)に「フォーム13F」を提出することが義務づけられている。この報告書では、運用会社の株式ポジションを開示しなければならず、これにより投資活動の透明性が確保される。さらに、機関投資家が議決権のある証券の5%以上を取得した場合には、さらなる開示義務が課される。こうした報告により、ポートフォリオの変化をタイムリーに追跡することが容易になる。

 投資家のポートフォリオ内の資産の売買頻度を示すポートフォリオ回転率は、投資家の投資ホライズンについて知る指標となる。たとえば、回転率が低ければ長期的なバイ・アンド・ホールド戦略であることが多く、逆に回転率が高ければ、頻繁な売買が行われ、投資ホライズンが短いことを示唆している。さらに、投資家のポートフォリオが特定の産業や市場規模の企業に集中しているかどうかを分析することで、投資家のリスク選好が明らかになる。たとえば、高成長産業や株価収益率(PER)の高い企業に集中的に投資している投資家は、一般的にリスク許容度が高い。逆に、低成長産業やPERの低い企業に集中している投資家は、リスク許容度が低い傾向がある。

 さらに、投資先企業の環境的・社会的パフォーマンスの評価は、投資家の選好に関する貴重な情報を提供する。たとえば、環境的パフォーマンスの低い企業を避ける投資家は、長期的な持続可能性の目標よりも目先のリターンを優先するかもしれない。