AI時代の成功企業が取り組む3つの変革
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サマリー:デジタル革命が情報処理やビジネスを革新したのに対し、現在進行中のAI革命はさらに大規模かつ急速な変化をもたらしている。AIは企業の継続的なリインベンション(再創造)、リアルタイム知能の活用、マルチモーダル... もっと見るデータの統合の3つの領域で変革を推進している。分析によれば、AIとハイテク分野の成長は今後5年で過去10年分の価値を生み、他産業にも広範な影響を及ぼすと予測される。本稿では、ネットフリックスやティックトックの事例を交えながら、AIがもたらす変革と企業の対応策を詳しく解説する。 閉じる

急速に進むAI革命

 コンピュータサイエンスの伝説的な先駆者ダグラス・エンゲルバートは、「デジタル革命は、文字や印刷の発明よりもはるかに意義深い」と述べたといわれる。このような革命が起きるのは、面倒な手書きでの写本に対する印刷機のように、新しい技術が以前の技術の限界を超える時である。デジタル化は大量の情報の収集、分析、伝達に伴う限界を突き破り、ビジネスプロセスの大幅な加速、革新的なビジネスモデル、グローバルに接続されたインターネットの世界をもたらした。

 そしていま、デジタル革命はAI革命に取って代わられつつある。今回の産業変革のスピードと規模と範囲は、以前の変革をはるかに上回るだろう。筆者らの経済分析では、AIおよびハイテク、IT分野における発展は、今後5年間で過去10年分に匹敵する価値を創出し、他の産業にも広範な変革をもたらすことが示唆されている。

AIがビジネスに根本的変化をもたらす3つの領域

 ITとデジタル化を土台にしたAI革命は、ビジネスにおける少なくとも3つの極めて重要な領域で限界を打破している。(1)断続的な変革ではなく、企業の継続的なリインベンション(再創造)の促進、(2)ソフトウェアの散発的なアップデートに頼らない、リアルタイム知能の活用、(3)テキストのみ、ビジュアルのみといった一種類の入力に制限されない複数のデータモードの統合、である。今日の先進企業は、こうしたAIの革新的特性をてこに競合他社との差別化戦略を図り、その過程で人間と機械の協働方法を再定義している。

企業の継続的なリインベンション

 消費者心理、地政学、世界金融の急激な変化によって、デジタル時代の静的な性質が脅かされている。企業はもはや、ソフトウェアのアップグレードのペースに左右されるような、段階的かつ断続的な変革に甘んじる余裕はない。いまやほぼ一夜にして状況が一変する環境に、ダイナミックに適応しなければならない。

 ネットフリックスを例に考えてみよう。同社は激しい競争にさらされながらも、AIを活用して継続的に事業のリインベンションを行い、ユーザーとのエンゲージメントを深めることで、ストリーミング業界で優位を保っている。

 たとえば、同社のAIアルゴリズムは視聴履歴や好み、作品を視聴した時間帯といったユーザーデータを分析する。これにより高度にパーソナライズされたレコメンドを提供し、個々のユーザーの体験を特別で魅力的なものにできる。AI主導によるパーソナライズは大きく成功しており、ネットフリックスで視聴される作品の最大80%がレコメンド経由である。

 ネットフリックス視聴者の画面に表示される各作品のサムネイル画像さえも、パーソナライズの対象だ。各動画に含まれる何万もの静止画像の中から、どの画像がどの視聴者を最も惹きつけるのかを選んでサムネイルを生成するためにAIが使われる。

 また、ユーザーのインターネット速度とデバイスの性能に応じて、配信の画質をAIでダイナミックに最適化するアダプティブ・ビットレート・ストリーミングによって、さらなるパーソナライズが実現している。この方法によりバッファリングが最小限に抑えられ、ユーザーの満足度を維持するうえで欠かせないスムーズな視聴体験が確保され、解約の減少につながる。

 AIはまた、視聴率の傾向と視聴者の反応を分析し、評判のよい作品ジャンルとテーマを特定するうえでも役立っている。とはいえ、AI主導のデータを用いてネットフリックスの幅広い視聴者に響く作品を制作するためには、人間の経験と創造性が必要だ。作品への投資とマーケティング戦略の最終決定は、人間が下さなければならない。

 創業以来27年にわたり、ネットフリックスは何度も自社のリインベンションを実行してきた。1997年に郵送のDVDレンタルサービスとして創業し、2年後に月額課金制を追加し、2002年に上場。2007年にストリーミング配信サービスを導入し、2013年にオリジナル作品の制作を始めた。