「最高の人材」を見逃さない意思決定のアプローチ
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サマリー:多くの機関や企業は、優秀な人材や斬新なアイデアを見極める際に、「本当に最高の人材や最も斬新なアイデアを選べたのだろうか」という疑問や不安に直面する。筆者らの研究によると、最初の大まかな予備選考の段階で... もっと見るは有望な候補者を適切に選別できている一方で、それに続く詳細な選考の有効性は、ほぼ運任せに近い結果となることがわかった。この背景には、意思決定者が不適切な人材やアイデアを選んでしまうことへの責任を感じ、リスク回避のマインドセットに囚われる傾向がある。本稿では、意思決定者がクリエイティブな人材や新鮮なアイデアを適切に選ぶために考慮すべき要素を紹介する。 閉じる

最終的な決定で有益な判断ができない要因

 アムステルダムにあるライクスアカデミー・ファン・ベールデンデ・クンステン(オランダ国立芸術アカデミー)は150年以上にわたり、芸術的才能のある人材の発掘と育成に取り組んでいる。その中には、明らかに成功を収めた人もいる。アカデミー出身者の中には、ピート・モンドリアンをはじめとする著名アーティストも含まれる。

 ライクスアカデミーは合格率2%未満という狭き門であり、毎年、オランダ国内外からの1600人以上の志願者が2年間のプログラムの少ない枠をめぐって競い合う。この数十年では、一流アーティストが入学者の選考に当たっている。審査員の仕事には3つの段階がある。まず、すべての候補者の作品を画像で精査し、約60人のファイナリスト(最終候補者)を協議の末に選び出す。次に、ファイナリストを呼び出して2回の面接を行う。その後、最終的に約25人に絞り込んで入学を許可する。

 多くの機関や企業は、優秀な人材や斬新なアイデアを見極めるのに同じような困難に直面し、同じ疑問につきまとわれる。「本当に最高の人材あるいは最も斬新なアイデアを選んだのだろうか」と。ライクスアカデミーの選考についての研究を含む筆者らの研究では、大きな可能性を秘めた人やアイデアを選ぶ過程の質を向上させる方法を明らかにした。

 本稿執筆者の一人カコビッチが関わった2022年発表の研究と、もう一人の執筆者ダイヒマンが参加し、2025年に発表した2部構成の研究は、選考過程の各段階が最高の人材や斬新なアイデアの見極めにどれくらい影響を与えるかを実証的に検証した。具体的には、最初の予備選考での専門家の関与と、最終的な意思決定段階での専門家の貢献を比較し、そのダイナミクスに焦点を当てた。以下では、その結果を紹介する。

大成する人を選び出す

 2022年発表の研究は、10年以上にわたる合格者と不合格者の包括的なデータを分析して、選考過程の有効性を評価した。ライクスアカデミーの志願者全員について、アートファクツ(世界的なアーティスト名鑑で、評判ランキングを掲載)とオークションの販売記録に基づく長期的な実績についての情報から、のちの成功を測定した。そして最高の人材を選び出す過程を考察した結果、最初の大まかな予備選考の段階では最も有望な候補者をよく見極めている一方で、それに続く手間のかかる選考の有効性は運任せに近い結果となることがわかった。

 筆者らの分析によると、審査員は最初の予備選考では非常に首尾よく優秀者を選り分けていた。この段階の不合格者のほとんどは、少なくともアーティスト名鑑やオークションの販売実績から判断すると、その後、アートの世界でほとんど活躍していなかった。一方、面接までこぎ着けたファイナリストの大多数は、このプログラムへの参加が許されたかどうかにかかわらず、やがてアーティストとしてのキャリアで成功を収めていた。

 クリエイティブなアイデアや人材を見極めなければならない立場の人に、この研究結果は良い知らせと悪い知らせの両方をもたらす。良い知らせは、経験を積んだプロフェッショナルには才能を見抜く能力があるということだ。審査員は膨大な数の志願者の中から少数のファイナリストを、難なく選び出すことができた。また「最高の人材」について明確な基準がなくても、決定を下すことができた。

 悪い知らせとは、候補者を絞った後の時間のかかる面接にはあまり付加価値がないと思われることだ。入学を許可されプログラムに参加したアーティストのその後の成功は、平均すると、不合格のファイナリストと変わりなかった。