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日常に「余白」の時間を設ける
現代の仕事の世界は、筆者らが「行動モード」(doing mode)と呼ぶものに夢中だ。目標を設定しTo-Doリストを作成し、せっせと項目にチェックを入れていく。職場では、測定しやすい短期的で具体的な目標について絶え間なく語られ、上司はそうした目標に注意をほとんど、あるいはすべて向けるよう、暗にあるいは明示的に促してくる。そしてたしかに、「仕事をこなす」ことは企業の存続に必要である。
しかし、組織を研究し、助言を行ってきた筆者らは、この行動モードが制御不能になりつつあると考えている。筆者らが現在進行中の調査では、世界中のさまざまな業種の中間および上級管理職1500人超のうち、39%が日中に立ち止まって計画や優先順位について考える余裕がないと答えている。また、59%が会議を「駆け足」と表現し、37%は「集中できていない」と答え、29%は他者の発言を検討し、それに対応するために必要な時間を確保できないと感じている。
行動モードだけで動いていると、目の前の大きな課題やチャンスを捉え損ね、人間関係を損ない、人生や仕事に価値をもたらす喜びを見逃してしまうおそれがある。自分にとって最も重要だった瞬間や記憶、気付きを思い出してほしい。それらの多くは、絶え間ない行動のさなかではなく、その合い間の空白の時に生まれたのではないだろうか。
筆者らの調査に参加した一人、国際的な慈善団体のシニアマネジャーであるアンは、仕事に圧倒された状態で2023年を終えたと報告していた。彼女は自分の処理能力を超えていることに気づかず、あまりにも多くの要請に「イエス」と言い続けていた。常に行動モードでいたため、同僚にも家族にも怒りやすくなっていた。彼女の勤務評価は芳しくなく、一歩下がって物事を見直し、より的確に優先順位を付け、ステークホルダーとの関係を改善する必要があると記されていた。
究極的には、リーダーとしてのウェルビーイングと成果のためには、猛烈な行動にストップをかけることを習慣にする必要がある。だが、極めて重要なことに、これは時間をつくるだけの問題ではない。立ち止まるためには、それまでとは異なる目の配り方をする必要がある。筆者らは、この1年半ほど計数百人にのぼる従業員やマネジャー、専門家を調査してきて、「余白モード」(spacious mode)と呼ぶものを探ってきた。このモードの時の注意力は、より広範に及び、ゆっくりしたものになる。
余白モードでは、行動モードにおける「〜すべき」「〜しなければならない」という義務感が一時的に棚上げされる。これにより、視野が広がり、好奇心を持って取り組むことができ、簡単には測定や予測ができない事象にも向き合えるようになる。また、相互依存や人間関係に気づき、それらを楽しむことができる。新たな洞察が得られ、手ごわく複雑な課題にもより適切に取り組むことが可能になる。人生と仕事は再び彩りを取り戻す。このように、余白モードは行動モードと同じくらい重要なのである。
しかし、たとえこの重要性を理解していても、多くの人は立ち止まる勇気を持てない。組織は行動モードを奨励するよう設計されており、その結果として、余白モードを積極的に促さない構造になっている。米国のオペレーションマネジャーであるポーラは、「多くの人にとって、立ち止まるのは怖いことです(中略)スピードを落としてほめられた人がいるでしょうか」と語った。
実際、立ち止まろうとしても、すぐに従来の行動パターンに戻ってしまう人が多い。アンも2024年に入り、時間をよりうまく管理し、休憩を頻繁に取ることを目指したが、実際に立ち止まっても、頭の中はTo-Doリストのことでいっぱいになり、最終的には立ち止まっていること自体に罪悪感を覚えてしまった。
では、To-Doリストに取り組む時間を減らすことなく、仕事を失ったりキャリアを脱線させたりすることもなく、立ち止まることを習慣にするにはどうすればよいのか。筆者らの研究と経験は、次のような戦術を示している。
まず、自分に許可を与える
私たちは本能的に、自分を行動モードに追い込んでいるのは上司や責任者のせいだと非難しがちだが、実際には、私たち自身が最も厳しい監督者になっていることが多い。したがって、余白モードを心から受け入れることができるかどうかは、自分自身にかかっている。