科学的な意思決定がスタートアップに利益をもたらすのはいつか
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サマリー:データに基づいた意思決定は業績向上につながると言われているが、筆者らの研究によれば、このアプローチは必ずしも万能ではない。中核となるビジネスモデルがまだ明確になっていないアーリーステージのスタートアッ... もっと見るプでは、科学的アプローチが、少なくとも短期的には業績を悪化させる可能性がある。本稿では、科学的アプローチが有効に機能する企業とそうでない企業の違いについて、それぞれの置かれた状況を踏まえて解説する。 閉じる

科学的な意思決定は、必ずしも業績向上につながらない

「データに基づいた意思決定をせよ」という重要な言葉を、創業者たちは常に意識している。近年では、スタートアップ企業を育てるための科学的アプローチ、つまり仮説を立て、それを立証する、あるいは反証する証拠を集め、データに基づいて意思決定を行うことが、業績向上につながると示されている。

 しかし、筆者らが行った新たな研究によれば、このアプローチは万能ではない。中核となるビジネスモデルがまだ明確になっていないアーリーステージのスタートアップにとっては、科学的アプローチが少なくとも短期的には業績を悪化させる可能性がある。

 筆者らの発見は、英国でさまざまな発展段階にある多様な業界のスタートアップ261社を対象としたフィールド実験に基づいている。研究では、二律背反を示す興味深い結果が明らかになった。ビジネスモデルが明確に定義されたスタートアップでは意思決定に科学的アプローチを採用することで業績(収益で測定)が即座に向上したが、創業間もないアーリーステージにある企業では業績が低下したのだ。

 両者の決定的な違いはどこにあるのか。それは、基本的なビジネスモデルがどれだけ発展しているか、そして科学的手法を使ってどのような問題を解決したか、である。

科学的方法が有効な企業

『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』誌に発表した筆者らの研究は、シンプルな形式を採用した。ビジネス支援プログラムを立ち上げ、参加した起業家全員に、ビジネスモデルキャンバスなどの意思決定フレームワークや、A/Bテストの実践方法といったスキルをトレーニングした。加えて、参加者の半数には、意思決定に科学的アプローチを用いることを教え、奨励した。また、参加者に会社の戦略的ビジョンと、会社が抜本的な変化を起こす可能性について尋ねることで、スタートアップのビジネスモデルの成熟度を判断した。大きな変化に強く、明確な戦略を持つ企業は成熟していると見なされ、柔軟なモデルを持つ企業はアーリーステージと見なされた。

 トレーニングの後、参加者に定期的にインタビューを行い、科学的手法の採用度を測定し、各企業の9カ月間の収益データを収集した。その結果、企業の成熟度と、科学的手法を用いた問題の種類との間に関係があることがわかった。科学的意思決定を採用する成熟したスタートアップは、既存の戦略を最適化し、微調整するためにそれを用いたが、発展途上のスタートアップは、より実存的な問いを解明するために科学的手法を用いていた。

 たとえば、メモリーカードなどを販売するある成熟した企業の創業者は、どのような商品説明がより多くの買い物客を顧客に変えるかという理論を洗練させるために科学的アプローチを使ったと説明した。「製品を特定のデバイスのためのメモリーソリューションとして宣伝し始めた」とその創業者は述べた。異なる製品リストができると、「最善の方法」が明らかになったという。