年配の従業員への年齢差別がAI導入を阻害する
Illustration by Ricardo Tomás
サマリー:経営者の多くは、年配の労働者がAIに適応できないと誤って決めつけているが、実際にはAIを活用する年配の「パワーユーザー」も存在し、生産性や意思決定の向上に寄与している。こうしたバイアスは、AI導入の効果を損... もっと見るねる可能性がある。本稿では、年配の労働者を含めたAI活用の実態と、その潜在力を引き出すために経営者が取るべき2つのステップについて紹介する。 閉じる

経営者は年配の労働者がAIに適応できないと決めつけている

 現在、経営者たちは2つの大きな推測を立てている。1つ目は、生成AIやAIエージェントといったAIツールで私たちの働き方が根本から変わるということ。2つ目は、中堅および年配の労働者がこうしたテクノロジーへの適応に向いていないということである。前者については今後の成り行きを見守る必要があるが、後者が誤りであることは現時点ですでにわかっている。その先入観を問い正さない限り、働き手も経営者も損をすることになるだろう。

 本稿執筆者の一人、モナ・モーシェッドは全年齢層の成人の研修と新たなキャリアへの就職を支援するグローバルな非営利団体、ジェネレーションの創設者兼CEOであり、もう一人の執筆者、アニカ・ヘブナーは高齢者支援団体SCAN財団のイノベーションおよび投資担当責任者を務めている。筆者らは、年配の労働者に対して、テクノロジーに関するこのようなバイアスが以前から存在するのを見てきた。

 2021年にジェネレーションが行った調査において経営者に求職者の強みを評価してもらったところ、若い候補者は45歳以上の候補者に比べて適合性が高く、関連性の高い経験があり、企業文化との相性がよいという見方が圧倒的だった。同様に、2023年にジェネレーションとOECDが共同で実施したフォローアップ調査では、雇用担当マネジャーの47%が、初級または中級レベルの職務に30~44歳の候補者を採用すると答えたのに対し、55歳以上の候補者を採用すると答えたマネジャーはわずか13%だった。

 こうした判断の問題点は、現実の結果と大きくかけ離れていることにある。実際、同じ雇用担当マネジャーに、すでに雇用されている中堅と年配の労働者の職務遂行能力を評価してもらったところ、89%のマネジャーが中堅と年配の労働者は年下の同僚以上とは言わないまでも同等の職務遂行能力があると報告した。

 根拠のない年齢バイアスは、経営者がAIの職場への導入を進めている現在、悪影響を及ぼすだろう。筆者らの最新調査によると、中堅や年配の労働者には固有の強みがあるにもかかわらず、この新たなAI環境下で、経営者は以前にも増してそれを見落としがちになっている。

年齢差別はAI実装の効果を弱めている

 最近ジェネレーションは、米国と欧州4カ国(フランス、アイルランド、スペイン、英国)において、生成AIツールの使用の増加という観点から中堅と年配の労働者の経験について調査を行った(本調査は、米国のSCAN財団と欧州のGoogle.orgの助成金を受けている)。この調査では、初級および中級レベルの職務で働く45歳以上の従業員2610人と、さまざまな業界と企業規模の雇用担当マネジャー1488人をサンプルとし、雇用担当マネジャーには初級および中級レベルの職務の候補者を評価してもらった。

 全体的に、経営者は若い候補者を好む。米国では、AIツールを日常的に使う職務に60歳以上の候補者の採用を検討する可能性が高いと答えた経営者は32%に留まったが、35歳未満の候補者となると採用を検討する可能性は90%に上った。欧州では、そうした職務に55歳以上の候補者の採用を検討する可能性が高いと答えた企業は33%だったが、35歳未満の若い年齢層となると86%に跳ね上がった。中間の年齢層は両者の数値の間だったものの、年齢が上がるほど経営者の関心は薄れた(米国では、経営者の79%が35~44歳の候補者の採用を検討する可能性が高いと答えたが、45~59歳の候補者では53%に減った。欧州では、経営者の71%が35~44歳の候補者の採用を検討する可能性が高いと答えたが、45~54歳となると52%に減った)。