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中国市場の転換期
ここ数十年、中国は世界経済の成長を牽引してきた。2010~2020年の経済成長は平均7%を超え、多国籍企業に推定3兆ドルもの対中投資を奨励する政策を取ってきた。だがいま、状況は変わった。経済活動は鈍化し、アジア諸国間での競争が激化し、地政学的リスク(第2次トランプ政権の貿易政策の潜在的影響を含む)が新たな不透明感をもたらしている。
その結果、中国へのエクスポージャーが最も大きい多国籍企業は、投資家から厳しい扱いを受けている。筆者らが勤務するベイン・アンド・カンパニーの同僚らが行った分析によると、中国へのエクスポージャーが大きい(2020年に中国からもたらされた収益が5億ドル超と定義される)多国籍企業245社は、それなりの利益を上げているものの、エクスポージャーが限定的な同業他社と比べて、企業価値(マルチプル法による)の合計が45%小さい。この「中国ディスカウント」(同等の企業と比べた時の時価総額の差)は、2020年以降で計7兆ドルにもなる。
これを受け、多くの企業が「中国プラス1」戦略によるリスク分散を模索してきた。すなわち生産とサプライチェーンを中国以外の国に拡大する戦略だ。しかし、こうした努力は、失われた価値を取り戻せていない。一方、「ABC」(Anything But China=とにかく中国から出よ)戦略を取ってきた企業もある。売上げの低迷と近隣諸国との競争激化により価値を得られなくなったとして、中国から完全に撤退するアプローチだ。
しかし、中国市場は依然として巨大で、潜在的な収益性は高い。それを捨てれば、その価値を誰かに譲り渡すことになる。だが、正しい戦略を取れば、企業は中国で成功できると、筆者らは考えている。多国籍企業と中国企業の両方と仕事をしてきた筆者らの経験では、その価値を解き放つ戦略は3つある。
1. M&Aを活用して中国の大衆市場にアクセスし、拡張する
経済成長が鈍化しているとはいえ、中国の大衆市場は拡大している。それも、多くの場合、多国籍企業が歴史的に支配してきたプレミアム市場を犠牲にして、である。中国国外の企業が競争力を維持するためには、拡大する中国の中間層に合わせてローカライズされたビジネスモデルを構築するとともに、新興市場に参入するためのスケーラブルな戦略を策定する必要がある。この戦略において、M&A(企業の合併・買収)と現地企業とのパートナーシップは決定的に重要な役割を果たすことができる。
ビール醸造世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)は、その好例だろう。ABIは数十年前から中国に進出しており、「バドワイザー」と「コロナ」をプレミアムブランドとして位置づけてきた。近年、ABIはハルビンビール・グループといった中国のビールメーカーを買収する形で、M&Aを通じたマーケットセグメンテーションを拡大し、大衆市場に浸透してきた。さらに、流通と生産能力を改善してマーケットリーチを拡張する一方で、プレミアムビールやクラフトビールのブランドにも投資して長期的な成長を確保した。この戦略により、ABIは青島ビールや雪花ビールといった中国の大手ブランドと競争し、大衆市場とプレミアム市場の両方でバランスの取れたプレゼンスを確立した。
中国以外でも、ABIはその強固な基盤を駆使して、グローバルサウスとりわけ東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカへの進出を図ってきた。中国のサプライチェーンの効率性と、プレミアム化戦略、そして市場の専門知識を活用することで、ABIはこれらの地域で自社ブランドを拡大するとともに、新たなブランドを獲得し、新興国における世界最大のビールメーカーとしての地位を強化できた。
2. 中国での価値創造に欠かせないものだけを所有する
多くの多国籍企業は、中国におけるバリューチェーン全体を所有して、魅力的な利益を上げることもない大きな設備を保有している。そうではなく、企業は最重要なケイパビリティのみを所有し、浮いた資本をもっと大きなリターンを見込める場所に投資すべきだ。
多くの多国籍企業は、自社の戦略のあらゆる側面が価値創造に等しく貢献していると誤解している。その結果、競争優位の大部分を牽引する、一握りの必須「戦略的資産」(商業ネットワークや専有技術、ブランドエクイティなど)を見落としていることが多い。こうしたコア資産の価値を最大化するビジネスモデルを採用すれば、必要性の乏しい側面を地元のパートナー企業に移転しつつ、過剰投資をせずに新たな収益源を解き放ち、収益性の高い成長を加速させることができる。