AI投資で価値を生み続けるための3原則
Illustration by Ray Dak Lam
サマリー:米国のビジネスソフトウェア開発企業インテュイットは、AIへの投資を通じて9000万ドル相当の効率化と、顧客からの問い合わせの11%削減を実現した。技術、人材、プロセスに基づく3つの原則によって組織文化を変革し... もっと見る、AIによる事業革新を継続している。本稿では、同社のシニアバイスプレジデントである筆者が、その具体的な実践手法を解説する。 閉じる

AI関連サービスで価値を創出し続ける

 ある製品が顧客の問題を完全に解決するようになると、ユーザーはすぐにその存在をまったく気に留めなくなる。正常に機能することをただ期待するだけだ。このため技術革新の推進は、ギリシャ神話に登場するシーシュポスの果てしない徒労のように感じられるかもしれない。開発者が革新的な新機能を山頂まで押し上げ、幅広い普及を実現するやいなや、その機能は標準となる。今日のブレークスルーは明日のスタンダードだ。そして彼らは瞬く間に山のふもとまで戻され、再び始めることになる。

 AIの急速な発展に伴い、この傾向は強まる一方である。イノベーションの速さを踏まえれば、スキルに基づく人材採用と業界のベンチマーキングの実践を通じて、組織は遅れずについていくことはできても、それだけでは競争で先んじることはできない。真の進歩を遂げるには、技術リーダーはビジョンを継続的かつ効率的に適応させ、成果を積み増すことができる職場文化を育まなければならない。

 私はインテュイットで、AI、アナリティクスおよびデータを主導する最高データ責任者(CDO)として、AIが事業を変革する様子を目の当たりにしてきた。

 インテュイットのカスタマーサクセス部門では、AIへの投資は2025年度の上半期だけで年換算およそ9000万ドル分の効率化をもたらした。クラウドネイティブの技術、生成AIツール、独自の生成AIオペレーティングシステム(GenOS)に大きく投資することで、コーディングの生産性も向上している。AIと機械学習の分野で1000件を超える特許を取得し、AI特許保有数で我々は世界第34位にいる。さらに、プラットフォーム全体で顧客にインテュイットのAI体験を利用してもらうと、問い合わせが11%減少するという大きな成果が得られている。

 これらは、技術、人材、プロセスに関する一連の3つの基本原則を取り入れることで実現した。どの原則も、永続的なAIトランスフォーメーションの文化を築くことを目的としている。技術チェックのあり方を刷新し、AIの専門家をチームに組み入れ、建設的な対立を奨励することによって、我々は顧客の成果を目に見える形で向上させてきた。

 インテュイットのプラットフォームを利用する事業者は、より迅速に支払いを受領し、時間を節約し、より適切なメッセージで顧客にリーチしている。我々はこのようなメリットの提供に注力することで、応用AIによるイノベーションの先駆者としての地位を固め、たえず変化するAI環境に素早く適応し続けることができている。

 進化する顧客ニーズを燃料と考えるならば、我々は以下の取り組みによって、そのエネルギーを効率的に活用できている。これらは他の組織にも、同じ効果をもたらす可能性を秘めている。

慢心を排した厳密な技術チェックを定期的に行い、進捗を追跡する

 私は5年前、インテュイットのCEOが主催する会議に出席し、彼を含む全上級幹部らにこう報告した。AIとデータの取り組みをこれほど推進しているにもかかわらず、事業は本来あるべき場所に到達するのが大幅に遅れている、と。

 その年の初めにインテュイットは、AIネイティブな体験とデータが自社のプラットフォームの進むべき道になると宣言していた。顧客は財務に関する支援だけでなく、特定の作業を丸ごと代行してもらうことを望んでおり、AIはそれを実現する可能性を秘めていた。そこで我々は、イノベーション部門を拡大するために適切なステークホルダーからの投資を確保した。必要なインフラを整備し、すべての主要分野にAI体験を拡大し、データガバナンスへの多額の投資を続けた。