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相手がこちらの話を聞いていない時
誰しも経験があるだろう。誰かと話している時、相手がこちらの話を聞いていないことに気づく。自分が話している最中に相手がスマートフォンの画面をスクロールしているなど明らかな時もあれば、電話口で気のない「うんうん」という返事だけが返ってくるような、より見えにくい場合もある。
誰かに対して示すことのできる最も大きな敬意の一つは、その人に全神経を傾けて注意を向けることである。しかし、それを実行するのはますます困難になっている。スマートフォンの通知、スマートウォッチの物理的な振動、そして頭に突然浮かぶ雑念などがある中で、集中を維持するのは大きな課題である。
筆者にとって、けっして忘れられないビジネスランチがある。それはあるメンターとの会食であった。私たちは、同僚たちがよく訪れる、ハーバード・スクエアにある人気のレストランに行った。ハーバードのコミュニティで15年以上を過ごしてきた筆者は、そのレストランのゼネラルマネージャーをはじめ、多くの客と面識があった。通りかかった多くの同僚に笑顔であいさつしていたが、メンターは「次回のランチは別の場所にしたほうが、会話に集中できるかもしれない」と述べた。その指摘は胸に刺さったが、たしかに的を射ていた。
では、相手が自分の話にきちんと注意を向けていない時、どうすればよいのだろうか。優れた会話には自然なリズムがあり、そのリズムを意識的に築くには、双方の主体的な関与が求められる。
相手とのつながりを取り戻すための4つのステップを紹介しよう。
1 一歩引く
相手があなたの話を聞いていないと感じた時には、会話の最中に精神的に一歩引いてみるとよい。ハーバード・ケネディスクールの上級講師で著述家のロナルド・ハイフェッツは、ダンスフロアから降りて「バルコニーに行く」と述べている。これは、目の前の状況から距離を取り、客観的な観察者として全体を俯瞰し、パターンを見出し、何が起きているのかを戦略的に自問するための比喩である。
筆者はこの瞬間を「ポーズ・アンド・ブリーズ」(いったん停止して呼吸する)と呼んでいる。これは、短時間で心の状態をリセットするための行為である。水をひと口飲む、考えを整理する、次の行動を決めるといった、簡単なことで構わない。
2 肯定的な意図を想定する
相手が話を聞いてくれない状況を個人的に受け止めたくなることもあるが、聞き手の肯定的な意図を前提に考えることが重要である。
みずからのアプローチが、相手の関心の低下に影響していないかを考えるべきである。相手に発言の機会を与えずに、長時間にわたり一方的に話し続けていなかったか、自問する必要がある。ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、Talk: The Science of Conversation and the Art of Being Ourselves(未訳)の著者であるアリソン・ウッド・ブルックスは、会話中に質問をしない人々を「ZQ」(Zero Questioners)と名づけ、会話における「話すこと」と「聴くこと」のバランスの重要性について論じている。
あなたに原因があるかもしれないし、そうでないかもしれない。相手の注意が散漫であることの責任は自分にあると考えてしまいがちだが、実際には多くの場合、外的要因が影響している。相手に関して自分が知っていることを考えてみよう。その人の生活において何か問題が起きてはいないか。職場内外で大きなプレッシャーに直面していないか。相手の注意散漫は、あなたとは関係がないかもしれない。何らかの反応を示す前に、相手に対して善意に基づいた解釈をすることが望ましい。
3 質問する
次のステップは、積極的に再び相手を会話に引き込むことである。気が散っている相手の注意を引く最も簡単な方法は、直接的な質問を投げかけることである。
相手の名前を呼び、「あなたは以前どのように対処していましたか」「どう思いますか」といった、オープンエンドな質問をする。こうした質問には「はい」「いいえ」だけで答えられず、より詳細な回答を引き出すため、相手がより深く応答する可能性が高まる。
相手が答えたら、フォローアップの質問をすることで、その関心を維持することができる。筆者がよく用いる最も有効なフォローアップの質問は「もう少し詳しく教えていただけますか」である。この種の質問は、初めの問いに対する豊かな回答を引き出すことができ、相手に情報を補足する責任を自然に促す役割も果たす。質問の答えを聞いた直後に、すぐ次の話題に移ってしまいやすいが、その前に相手の反応にしっかりと意識を向け、注意深く耳を傾ける必要がある。
相手が明らかにあなたを無視している場合は、「大丈夫ですか。上の空のように見えますが、何か気になることがあるのでしょうか」と穏やかに問いかけるとよい。相手を非難していると受け取られないようにするためにも、肯定的な意図を持つことが重要である。
4 リズムを変える
会話のテンポがずれていると感じた時には、それを修正するためのいくつかの選択肢がある。
話すのをやめて、沈黙に任せるという選択肢もある。やがて相手がこちらを向いたら、微笑みながら前述の質問の一つを投げかけて、会話を継続すればよい。
時には身体的な動作を変えることで、会話に集中し直すことができる。特に長時間の会議やカジュアルな一対一の対話においては、体勢を変えることで相手の関与をリセットできる。座っていた場合は立ち上がり、立っていた場合は「お掛けになりませんか」といった一言を添えるとよい。
優れたコミュニケーターは話し上手であるだけでなく、相手を会話に引き戻す術を心得た聞き上手でもある。
* * *
気を散らす要素が多い現代社会においては、人々の注意を引きつけ、それを維持する技術を身につける必要がある。私たちは、言語的および非言語的な多くの手段を活用することができる。そして、考え方やアプローチをわずかに変えるだけで、実りの少ない会話を建設的な議論へと転換することが可能である。
"When You Can Tell Someone Isn't Listening to You," HBR.org, March 13, 2025.