リーダーの影響力を左右する「声の存在感」は鍛えられる
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サマリー:リーダーシップにおける人間的側面がかつてないほど重要視されるいま、「ボーカル・プレゼンス」(声の存在感)を高めることは、単なるエグゼクティブ能力の強化ではなく、人々を鼓舞し、つながりを築き、共通の目標... もっと見るへと動かすための本質的な要素である。呼吸と発声の技術を意識的に練習することで、聴衆の心に深く響く魅力的な存在感を築くことができる。本稿では、「ボーカル・リーダーシップ」を向上させるための、5つの簡単かつ機能的なエクササイズを説明する。 閉じる

声が与える印象

 組織がますます複雑化し、スピードが速くなり、相互に結びついていく中で、リーダーを際立たせる重要なスキルの一つは、どのように振る舞い、コミュニケーションを取るかだろう。しかし、効果的なコミュニケーションにおいて見落とされがちな根本的な要素がある。それは、声の安定性と音質をコントロールする能力である。「ボーカル・プレゼンス」(声の存在感)の質は、メッセージの伝え方だけでなく、その影響力そのものをも変える。

 教授、プロの講演者、コンサルタントとして、筆者(アルブレヒト)は自分の声について常に考え、取り組んでいる。筆者は、ステージに立って講義し、プレゼンを行い、パネルで議論する機会が多い。もちろん内容は重要であるが、聴衆の関心を引きつけ続けられるかどうかは、声の質によっても決まる。

 筆者は長年、自分の声と呼吸に悩んできた。重要なプレゼンテーションの際には緊張し、喉が渇いて声がかすれ、話すのが困難になることがあった。緊張を何とか抑えることができた時でも、長時間話す時には常に疲労感を覚えていた。ステージに上がる前に深呼吸をしたり、息を吸う時に下腹部に意識を集中させたりと、さまざまな対処法を試したが、効果的かつ確実な方法は見つからなかった。

 2012年、筆者はスイスのローザンヌを拠点とするボーカルコーチのロビン・デ・ハースと出会った。矛盾しているようだが、重度の口蓋裂を持って生まれたロビンは、普通に話すことなどできないとされていた。生まれてからの10年間、担当医たちは、ロビンとその両親にそう言い続けてきた。

 しかし、このハンディキャップが、人間の声を理解したいという強い願望を彼の中に芽生えさせた。最初は自分自身のため、やがては発声に悩む他者を支援するためであった。自分の声を見つける過程で、ロビンは世界中の著名なボイスコーチたちの指導を受けたが、結局のところ彼らは助けにはならないと悟った。

 ロビンにとってすべてが変わったのは、ニューヨーク大学の機能解剖学教授であるリン・マーティンと出会った時だ。彼女は声の専門家ではなかったが、1968年にメキシコシティの高地条件で五輪金メダル8個を獲得した米国の陸上チームを支えた呼吸法のコーチ、カール・スタウに師事していた。マーティンの指導を受ける中で、ロビンは従来の発声・呼吸トレーニングには存在しなかった、動作の感知力、その配分、タイミングを見極める目を養った。言い換えれば、マーティンは、声とは呼吸メカニズムの内部運動の効率が音として現れたものであると捉えるよう教えた。

「ボイス・プレゼンス」を高める5つの簡単なエクササイズ

 呼吸に関わる解剖学的な力学を綿密に研究する中で、ロビンは「ボイス・プレゼンス」を高めるための、簡単かつ実用的な5つのエクササイズを考案した。これらのエクササイズの主な目的は、胸郭の動きをより均等に分散させ、声をより自在にコントロールする方法を身につけることである。人前で話す必要がある時には、これらの簡単なエクササイズを順番に行うとよい。筆者もこれを毎日実践している。

エクササイズ1:呼吸と体を結びつける

 まず、今日の呼吸の状況を確認するために、息を吐きながら、軽いスー音を心地よいと感じる程度に長く出し続ける。スー音を出し切った時に、体のどこかに収縮を感じるかを確認する。

 次に、四肢をそれぞれ片側ずつ30秒間、円を描くようにゆっくりと動かす。下肢は足を床につけて円を描くように動かし、上肢は肩を使ってゆっくりと円を描く。再びスー音を出しながら息を吐き、感覚に変化があるかを確認する。目的は、息をより長く吐く能力を再習得することである。なぜなら、本来私たちは、危険が存在しない時にそのように呼吸するからである。「闘争・逃走」反応における呼吸は、短く急激に息を吸い込むものだが、息を吐くことはその逆であり、危険が存在しないというサインである。

エクササイズ2:息を吐くことに集中する

 五輪で金メダルを獲得したリー・エバンスは、カール・スタウから「悪い空気の上にさらに悪い空気を重ねるのをやめて、まず息を吐くことに集中するように」とアドバイスされた。呼吸の重要性を強調するのは理にかなっているが、実際の呼吸の生理学はしばしば無視されている。呼吸のサイクルを「吸ってから吐く」と考えると、肺によけいな空気を加えることになる。そうではなく、「息を完全に吐き終えた後に自然に吸う」と捉えるほうがはるかに理にかなっている。

 これを実践するには、手を口の前に置き、口を開けて、鏡を静かに曇らせるよう手に息を吹きかける。手に温かさを感じながら、息を吐く間はその温かさを維持し、(このように無理なく)吐く息を出し切るまで、途切れないように弱めていく。そして、次の息を静かに鼻から吸い込む。「迷ったら息を吐け」という言葉は、息を吐くことの重要性を的確に示している。

エクササイズ3:空気の流れに乗せて話す

 エクササイズ2を踏まえて、息を吐く際の空気の流れに乗せて話す方法を習得できる。手に感じる温かさには始まりと終わりがあり、その温かさを感じ始めた時が、息を吐き始めた合図であり、その呼気に乗せて話すことができる。声を出す理想的なタイミングは、空気が体から流れ出る瞬間である。手のひらに温かさを感じることと、その瞬間に「ヴー」というハミング音を発声することを交互に繰り返して練習する。そして、実際に話す時にも、その感覚のタイミングを保つ。空気の流れと同時に発声するほうが容易であることにすぐに気づくだろう。

エクササイズ4:声のバリエーションを探る

 声のバリエーションは、メッセージを伝える上で鍵となる。声を効果的に使うには、ウォーミングアップを行い、声量、声色(トーンや感情の変化)、音質(声の独特な質感)といった柔軟な特性を持たせるようにする必要がある。

 エクササイズ3を踏まえて、「ヴー」の音を出しながら、声の大きさと高さを変化させる。声の大きさを変えるには、下唇を上の歯に押しつける。より大きな声を出すには、下唇を上の歯に押しつける。音の高さを変えるには、心地よい音域から始め、息を強くせずに徐々に上下に滑らせる。次に、1から5まで数えながら、自分の声色に注意を向ける。次に数を再び数えるが、今回は感情の状態を切り替えながら(厳格、関心、愉快、悲哀、無感情、緊張、幸福)、録音機器を使って、それぞれの状態に応じて声色がどのように変化するかを確認する。

エクササイズ5:声と心を結びつける

 コミュニケーションの方法は、自身の考え、価値観、信念に大きく影響される。それらの内面的なつながりを探り、意識的に声に結び付けない限り、自分の思考や信念と声との関係を見落としてしまうおそれがある。

 この結びつきを練習するには、まず、人前で話す必要があるようなフレーズを書き出すことから始める。たとえば、「皆さんこんばんは。今夜のイベントへ心より歓迎いたします」といったフレーズがよい。フレーズを選んだら、それをニュートラルな調子で話して録音する。

 次に、実際に話す相手がどのような人たちなのか、彼らがあなたのプレゼンテーションをどう受け取り、どう感じるのか、そして大切な夜がついに訪れたことを自分がどう感じているのか、スピーチを通じて何を伝えたいのかを想像する。準備が整ったら、再び同じフレーズを録音し、その声にどのような違いが現れるかを確認する。

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 リーダーシップの人間的要素がこれまでになく重視される時代において、ボーカル・リーダーシップを身につけることは、単なるエグゼクティブ能力の強化にとどまらない。それは、人々を鼓舞し、つながりを築き、共通の目標に向けて動かすための本質的な要素である。呼吸の連携と発声技術を意識的に練習することで、聴衆の心に深く響く、威厳と信頼性を備えた魅力的な存在感を築くことができる。


"5 Techniques to Build a More Powerful Speaking Voice," HBR.org, March 21, 2025.