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従業員がAIに不安を感じるのは、リーダーを信用していないから
2025年のビジネス界におけるAIを取り巻く状況について、PwCが発表した予測によると、AIは2025年の1年間に、ビジネスの進め方と価値の生み出し方を変える最大の要素になるという。
現在、さまざまな業種の企業で、働き手が中核的な課題を実行するプロセスへのAIの導入が急速に進められている。顧客サービスの合理化に始まり、意思決定の支援、効率の改善に至るまで、多くのことにAIが活用され始めているのだ。また、このテクノロジーは、企業が働き手をどのようにマネジメントするかも様変わりさせつつある。AIシステムとAIエージェントによりワークフローを監督し、従業員とAIを協働させることが可能になり始めているのである。
しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、AIを導入している企業の割合は、2023年の55%から2024年には78%に跳ね上がったが、その半面、働き手が日々の業務でAIを活用したいという熱意はむしろ大幅に低下している。
ここから、ある重要な問いが浮上してくる。それは、働き手はAIを信用しているのか、という疑問である。この点は重要だ。働き手がAIに対して抱く信用の度合いは、AIの導入が成功するかどうかに直接的な影響を及ぼし、働き手の生産性とエンゲージメント、そしてAI主導の変化と監督を働き手がどの程度受け入れるのかにも関係してくる。
ところが、データは働き手がAIをあまり信用していないことを示している。ピュー・リサーチセンターの最近の調査によると、米国の働き手はAIに対して消極的で、同調査の回答者の52%は、AIが職場に及ぼす影響について「不安」を感じており、33%は「圧倒されている」と答えている。それに対し、「希望を感じて」いると答えた人は36%に留まった。
エデルマンの調査によると、世界全体で見た場合も、回答者の35%はAIに抵抗を感じると述べており、AIを受け入れているという人は30%だった。また、ピュー・リサーチセンターの前出とは別の調査によると、米国人の71%は、企業が採用決定の最終判断でAIを用いることに反対し、61%は働き手の行動を把握するためにAIを用いることに反対している。ボストン コンサルティング グループ(BCG)の最近の調査では、生成AIをよく利用していると述べる回答者のうち、およそ半数は、向こう10年の間に自分の職がなくなる可能性があると思っている。
こうした不信感の少なくとも一部は理にかなっている。PwCが最近、「責任あるAI」をテーマに行った調査によると、自社のAIリスクについて予備的調査を済ませている企業は、全体の58%に留まっているのだ。
最近の経営学の研究によれば、働き手がAIを信用しない大きな理由の一つは、AIツールの助言や意思決定が思いやりの精神を欠くように感じられる点にある。働き手としては、AIが自分たちの利害を「ケア」して、考慮してくれるのか不安なのだ。
本稿のテーマに関して、思いやりの精神──すなわち、ポジティブな発想の下、相互依存関係にある他者の利害に奉仕しようという意思──が持つ意味は大きい。そのような精神は、「信用される側」(この場合で言えばAI)が「信用する側」(この場合で言えば働き手)のために好ましい行動を取る重要な土台を成すものだからだ。両者の間に信用が生まれるためには、そうした行動が欠かせない。
また、働き手がこのような不安を抱いているとすれば、その企業のリーダーは、自分も働き手から信頼されていない可能性があると考えるべきだ。働き手がAIに対して抱く感情には、働き手がリーダーに対して抱いている感情が反映される。具体的には、リーダーがAIをどのように活用するつもりだと思われているのか、そして、リーダーがAIを導入する動機が信用されているのかに大きく影響を受けるのだ。