
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
AI活用時のトレードオフをいかに評価するか
生成AIは、市場エコシステム全体に衝撃と技術的混乱をもたらし、特にマーケティング関係者はその影響や機会、課題への対応に苦慮している。生成AIはさまざまな形のコンテンツを生成するため、商品紹介コピー、ブログ記事、動画やウェブ広告、顧客への個別オファーの創出や市場調査(見込み客、既存客、その他の市場参加者の反応を予測するために使用できる場合もある)に大きな進歩をもたらすと、多くのマーケターは捉えている。実際、セールスフォースが世界中のマーケター5000人を対象に実施した調査「マーケティング最新事情リポート第9版」では、「AIの導入または活用」が回答者の最優先課題であった。一部の企業は、生成AIツールの使用により、マーケティング成果を大幅に向上させている。たとえば、バンガードは生成AIの活用により、リンクトイン広告のコンバージョン率(=アクセスしたユーザーのうち、目的の行動を取った人の割合)を15%向上させた。同様に、ユニリーバのカスタマーサービスは、応答時間を90%短縮させている。
しかし、セールスフォースの調査によれば、マーケターの96%が生成AIを導入済みか18カ月以内に導入予定であるにもかかわらず、マーケティング業務に完全に導入している人の割合は32%に留まっている。これは、AI主導のマーケティング施策にはリスクが伴うためであると考えられる。たとえば、コカ・コーラがAIを使って1995年のクリスマスCM「Holidays Are Coming」のリメイク版を作成したところ、最初のうちは消費者に好意的に受け取られたが、その後、AIによる生成画像に共通する批判である「温かみの欠如」により大きな非難を浴びた。したがって、企業にとっての問題は、生成AIツールを導入すべきかどうかではなく、生成AIツールをどのようにさまざまなマーケティング施策に導入すれば、リスクを軽減し利益を最大化できるかということである。
最高データアナリティクス責任者(CDAO)は、リスクの大きさにかかわらず、組織全体にAIを導入する責任を負っているが、生成AIをマーケティングや他の部門で使用するための正式な戦略や戦術を策定していない場合が多い。生成AIツールの選択(その種類はめまいがするほど多岐にわたる)に関する決定は、個人レベルで行われることが多く、試験的、あるいはその場限りの利用によって、つぎはぎのシステムとなっているか、経営陣に知らされないまま導入されていることもある。筆者らが企業リーダー20人以上から話を聞いた結果として、マーケティングにおける生成AI戦略を立てる際には、多くの場合、次の3つの判断が重要であることがわかった。(1)生成AIと従来の分析AIのどちらを使用するか。(2)望ましい出力(=結果、生成データ)を得るために生成AIモデルに追加すべきものがあるか。(3)プロンプト(=入力する質問・指示)や出力のチェックなど、人間の介入はどの程度必要か。
これらを決定するには、企業は以下のような多くの質問に答えなければならない。
・生成AIツールで達成したいタスクは何か(事業予測をするのか、コンテンツを生成するのかなど)。
・その用途に適した構造化データまたは非構造化データがあるか。
・リソースにはどのような制約があるか。
・生産性はどの程度向上させる必要があるか。
・出力はどの程度のスピードでエンドユーザーに届ける必要があるか。
・生成AIの回答におけるエラーや不正確さによる影響はどの程度か。
・正確さ、プライバシー、リスク軽減は、会社の評判や価値提案にどの程度関わるか。
・プロセスや出力をどの程度監督する必要があるか。
・法的リスクや規制リスクはどの程度負えるか。
・自社およびエンドユーザーにとって、プライバシーに関する懸念はどの程度強いか。
本稿では、マーケターがこれらの質問にどのように対処すべきか、生成AIツールのトレーニングの入力(=学習データ)とプロンプトベースの入力(=アクセスする参照情報)の作成におけるトレードオフについて説明し、マーケターがトレードオフを戦略的に評価する際に役立つ枠組みを紹介する。
その用途には生成AIと分析AIのどちらが適しているか
マーケターにとって最初の重要な決定事項は、その用途に生成AIが必要なのか、それとも分析AIで十分なのかを判断することである。多くのマーケターは、生成AIと分析AIの違いをよく理解していない。わかりやすくいえば、分析AIは、既存のデータを分析し、まだ存在していないデータの予測や分類にそれを利用する。分析AIは構造化データ(行と列に整形できる数値データ)を使って学習し、構造化された出力を生成する。マーケティングでは、顧客が購入する可能性の高い製品やサービス、顧客が支払う可能性が高い価格、顧客が反応する可能性が高いプロモーション、顧客がクリックする可能性が高い広告などを予測するために使用されている。
従来の分析型の機械学習は、数十年にわたってマーケティングに広く効果的に利用されてきた。たとえば、キアは約10年前にIBMの「ワトソン」を使用して、キアブランドの特徴を体現するインフルエンサーを特定した(そして2016年のスーパーボウルでキアのプレゼンスを高めるために活用した)。今日においても参考になる活用事例である。分析AIは、このような予測に非常に優れているため、マーケターにとって依然として非常に価値の高いものである。しかし、最近では生成AIが注目されているために、分析AIの活用が適している場合でもビジネスリーダーはそれを検討せず、競争優位性の要因となるものを逃すこと、時代に取り残されることを恐れて、最新技術をただ追いかけている。