斬新だった「ナレッジ・クリエイティング・カンパニー」
iStock/ SB
サマリー:2025年1月25日、知識創造理論で世界的に知られた経営学者であり、ベストセラー『失敗の本質』の著者の一人である野中郁次郎氏が89歳で逝去した。野中氏はその革新的な理論と深い洞察によって、日本のみならず世界に... もっと見る多大な影響を与えた。1991年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)での論文発表もその一つである。当時の経緯を知るロザベス・モス・カンター氏(元HBR編集長であり、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授)が舞台裏を振り返る。 閉じる

その示唆は2025年のいまもなお有効である

 1991年、野中郁次郎氏の論文"The Knowledge-Creating Company"(邦訳「ナレッジ・クリエイティング・カンパニー」)が『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に掲載された。同論文はHBR編集部のいくつもの目標を同時に実現するものだった。この「乗数効果」があったため、編集部はこの原稿にとりわけ魅力を感じていた。

 まず、この論文はグローバルだった。少なくとも、当時HBR読者の大半を占めていた北米の英語圏の読者にとってはグローバルなものだった。野中氏は日本という重要な国のビジネス文化に深く身を置く国際的な著者であり、そうした野中氏にHBRは注目した。

 米国人は何年もの間、自国の競争力に懸念を抱いていた。自動車やコピー機など、かつて米国企業が席巻していた業界で日本企業が台頭し、有力企業へと成長していたからだ。その中で、HBR編集部に在籍する私たちにとって、野中氏の研究を西側の読者に届けることは非常に重要であった。

 さらにHBRは、人々の視点を変え、ニュースに取り上げられるような画期的なアイデアを掲載することも目指していた。野中氏はこの論文において、斬新で強力なアイデアを提示した。そのアイデアはどの国においても、マネジャーの思考を一変させる可能性があった。