ブランドの直販に対する小売業者の反発をいかに抑えるか
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サマリー:現在、多くのブランドが直販チャネルの整備を進めている。その一つであるナイキは、直販チャネル強化に注力した結果、小売業者からの反発を買い、売上げの減少や棚スペースの喪失といった深刻な影響を受けた。ただし... もっと見る、すべての小売業者が一様の反応を示すわけではない。本稿では、筆者らが行った研究結果をもとに、ブランドが新しい販売チャネルを追求することと、重要な小売りパートナーとの関係を維持することを両立させるうえで有効な行動を提案する。 閉じる

直販チャネル戦略の見直しを迫られたナイキ

 2024年の秋、ナイキが新しい経営体制の発足早々に行った決算報告会でのこと。同社CFOのマット・フレンドは、「直販チャネルを過度に重んじたことに関わる過ち」の一部を是正し、小売りパートナーとの連携を再び深める方針を明らかにした。

 2017年、ナイキは独自の販売チャネルへの投資を大幅に拡大させた。ナイキ・ドット・コムなどのオンラインショップや、ナイキSNKRSなどのモバイルアプリ、そして多数の実店舗を開設したのだ。すると、多くの小売業者はナイキの商品の取り扱いを減らし、次第に他のブランドの商品の仕入れを増やしていった。たとえば、『フィナンシャル・タイムズ』紙によると、大手シューズチェーン、フット・ロッカーの在庫に占めるナイキ商品の割合は、過去3年間で75%から65%に低下した。

 ナイキは2024年秋、直販チャネルへの投資が自社のビジネスに悪影響を及ぼしていることに気づき、方針転換に乗り出したのである。しかし、そのような事態はそもそも避けることができなかったのか。

 筆者らは、『ジャーナル・オブ・マーケティング』誌『ジャーナル・オブ・ジ・アカデミー・オブ・マーケティング・サイエンス』誌に発表した最近の研究で、ブランドが直販チャネルの整備に乗り出した場合、小売業者がどのように反応するのかを調べた。

 すると、明らかになったのは、直販チャネルの開設をきっかけに、小売業者の離反が大々的に進むということだった。ただし、すべての小売業者が一様の反応を示すわけではない。本稿では、これらの研究結果をもとに、ブランドが新しい販売チャネルを追求することと、重要な小売りパートナーとの関係を維持することを両立させるうえで有効な行動を提案する。

直販チャネルは両刃の剣

 直販チャネルの強化を目指してきたブランドは、もちろんナイキだけではない。米国のアマゾン・ドットコムや中国のTモールといった、さまざまなブランドや小売業者の商品を1カ所に集約して提供するオンライン・プラットフォームが影響力を強めている状況に対応するために、いま多くのブランドが直販チャネルの整備を進めている。利益率を高めることに加えて、顧客との接点を確立し、顧客の関心と信頼を獲得し、顧客データを入手することが狙いだ。

 直販チャネルは、オンラインショップだけでなく、他のさまざまな形態のものも登場している。たとえば、ノースフェイス(アウトドアレクリエーション製品)の「XPLRパス」や、マイクロソフトの「Xボックス・ゲーム・パス」のようなサブスクリプションサービスや、ヒューゴ・ボス(メンズファッション)の「プレラブド」や、ドクターマーチン(ブーツ)の「リソウルド」のようなリユース品公式再販チャネルは、その一例にすぎない。

 直販チャネルは、ブランドが消費者の注目を引きつけ、売上げを伸ばすうえで、目覚ましい成果を上げてきた。その結果、直販チャネルは、瞬く間に、多くのブランドにとって欠くことのできない販売チャネルになった。アディダスとナイキはいずれも、直販チャネルが売上高の40%以上を占めると発表している。これは、金額にするとそれぞれ95億ユーロと215億ユーロに相当する。