関税戦争で混乱に陥ったサプライチェーンに対処する方法
Illustration by Daniel Creel
サマリー:貿易ルールの頻繁な変更は、企業に大きな混乱と予測不能なリスクをもたらす。関税の急変や報復措置により、サプライチェーンの再構築やコスト増加が避けられず、企業は投資判断や市場戦略の見直しを迫られている。本... もっと見る稿では、このような混乱の中でサプライチェーンマネジャーが取るべき対応策を提案する。 閉じる

ルールが頻繁に変わると大きな混乱が生じる

 ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の名誉教授、ブルース・スコットは、資本主義をスポーツになぞらえたことがある。そこでは、全員が合意したルールに基づきゲームが展開される。それなのに1分ごとにルールが変わるゲームのコーチになったことを想像してみるとよい。どのようにプレーすればよいのか。スポーツと同じように、ビジネスには一定の予測可能性が必要であり、ゲームの途中でルールが変わると大きな混乱が生じる。

 あなたの会社が国際貿易に依存しているなら、現在の環境はまさにこのように感じられるだろう。本稿では、サプライチェーンマネジャーが直面している問題と、ある程度状況が安定するまでの間に何をすべきかについて、いくつかのアイデアを紹介したい。

現在のサプライチェーンの問題

 これには、次のものが含まれる。

 関税戦争の結果が不透明なため、先の計画が立てられない。国境を越えるサプライチェーン、とりわけ物品のサプライチェーンに変更を加えるためには、時間と大規模な投資が必要だ。たとえば、自動車部品の生産拠点を移すためには1年かかるかもしれない。ただし、国内のサプライヤーに、移転を引き受けるだけの余力があればの話だ。現在の半導体の輸入量をカバーできる生産能力を新たに構築するには、数千億ドルの投資と、10年以上の歳月を要するだろう。

 関税率などの輸入規制が現在のように急変する場合、企業経営者は事態が落ち着くまで投資を控えるだろう。つまり投資の奨励どころか、投資の冷え込みにつながる。

 多くのメーカーは関税コストを吸収できないため、価格を引き上げる。フロリダ州とカリフォルニア州で果物を生産するある事業者によると、青果農業の利幅は極めて薄いく、「せいぜい1桁台」であることが多いという。米国の多くの生産者は、輸入材料物資のコスト上昇に加えて、オフシーズン時、中南米から輸入する農産物の関税にも対処しなければならない。関税コストを吸収できなければ、価格を引き上げるしかないだろう。すると米国の平均的な世帯の購買力は低下し、インフレ圧力を悪化させ、全体的な需要を押し下げることになる。

 報復措置は生産の経済学を変える可能性がある。多くの国が米国製品に報復関税を適用するとして、それが実現すれば、米国製品の輸出にダメージを与え、すでに脆弱なシステムがいちだんと不安定化するおそれがある。前出のフロリダ州の生産者は、すでにカナダの顧客からイチゴの注文をキャンセルされたという。こうした米国製品のボイコットは世界中に広がっている。ソーシャルメディアには、米国製品を中傷するストーリーが蔓延している。米国の農産物に対する中国の報復関税は、2026年の大豆や油糧種子、穀物の作付けに大きな不透明性をもたらす可能性が高く、農業機械部門にも波及するだろう。