テンセントはどのようにコロナ禍の中国で信頼されるプラットフォームを生み出したのか
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サマリー:「信頼」はオンラインプラットフォームの成功に不可欠であり、特に危機的な状況下ではその重要性が増す。筆者らの研究では、中国のオンラインプラットフォーム企業テンセントが開設した互助プラットフォームを事例に... もっと見る、信頼構築のメカニズムを分析した。本稿では、その研究結果をもとに、ユーザーの安心感を支える3つの要素を紹介する。 閉じる

ユーザーの信頼を得たオンラインプラットフォーム

 市場の急変やサプライチェーンの混乱、そして世界的な公衆衛生の緊急事態が相次ぐ時代に、異なる当事者間の交流や取引を促進するオンラインプラットフォーム事業の成功の基盤は「信頼」である。商品を購入する時、配車を依頼する時、あるいは助けを求める時であれ、見知らぬ人と関わる際に安心感を持てなければならない。しかし信頼を育むのは容易ではない。危機的状況の時はなおさらである。

 筆者らは、2022年後半に中国がゼロコロナ政策を突然打ち切った時、オンラインプラットフォームが信頼を育むにはどうすればよいのか、特に不確実性が高まる時期においてどのように対応するかという問いを研究の中心に据えた。大規模な感染の波と市販薬の深刻な不足のなか、多くの人々が解熱剤のような基本的な医薬品の入手に苦しんだ。

 これを受けて、中国最大級のオンラインプラットフォーム企業である騰訊控股(テンセント)は、ユーザーが医薬品を安全に求め、提供し、交換できる一時的な危機対応型の互助プラットフォームを立ち上げ、短期間に150万件以上の取引を実現した。このプラットフォームは、メッセージング、ソーシャルメディア、モバイル決済機能を統合したスーパーアプリ「微信」(ウィーチャット)のエコシステム内に構築された。筆者らの調査時点で、同アプリの月間ユーザー数は13億人を超えていた。

 筆者らは、このテンセントの互助プラットフォームにおけるユーザーの交流に注目することで、オンラインプラットフォームにおける信頼構築をリアルタイムで観察するというユニークな機会を得た。主な観察期間は2022年12月20日から2023年1月31日までであったが、2023年1月31日以降の期間についても観察を継続した。

 この間、筆者らはユーザーの行動パターンを分析するとともに、60件を超えるユーザーインタビューを実施し(ユーザーの経験、懸念、動機を調査)、さらにプラットフォームの機能がどのように繰り返し更新されたかも追跡した。加えて開発者への聞き取り調査も行い、ユーザーのニーズに応じて信頼構築メカニズムがいかに活用されたかを明らかにした。

 このようなアプローチにより、極めて不確実性の高い状況下において、特定のプラットフォームのデザインがどのように信頼を育み深化させたかを、明確に理解することができた。多くのユーザーが、助けを求めるだけでなく、提供するためにも再びこのプラットフォームを訪れたことは、この場がユーザー間に感情的な絆を築く役割を果たしたことを示唆している。

 さらに、筆者らはテンセントの互助プラットフォームに関する2200件以上のソーシャルメディアやフォーラムでの議論を調査し、ユーザーの反応が懐疑からテンセントのプラットフォームへの信頼へと変化し、やがて日常生活においても他者を信頼する姿勢へと広がっていったことを確認した。このプラットフォームは、緊迫した状況下におけるデジタル環境で信頼がどのように生まれるのかを示すユニークなケーススタディであり、オンラインプラットフォームを運営する企業のリーダーにとって重要な教訓を提供している。

 ビジネスリーダーにとって、信頼とは単なる機能的要件ではなく、戦略的な資産である。信頼を効果的に築けるプラットフォームは、ユーザーを維持するだけでなく、エンゲージメントを高め、成長を促進し、ブランドロイヤルティを強化する可能性が高い。さらに重要なのは、個々の取引を超えて、ユーザーの行動そのものに持続的な影響を与える点である。

プラットフォームが信頼を育む方法

 経済的・社会的交流において信頼は不可欠であるが、デジタルプラットフォームにおいては、匿名性、個人の履歴の欠如、相手の意図に対する不確実性により、信頼の構築が困難になる。ユーザーはしばしば躊躇する。たとえば、「売り手のレビューは正当なのか」「サービス提供者は約束どおりに対応してくれるのか」といった疑念である。危機的な状況下では、即時に信頼が求められ、他者に欺かれるリスクがいっそう高く感じられる。

 テンセントの互助プラットフォームは、信頼構築の過程を観察できる貴重な機会を提供した。病気で投薬を必要とするユーザーは、見ず知らずの他者に余剰医薬品を分けてもらう必要があった。この仕組みを機能させるためには、信頼が可能となるだけでなく、容易に実現できるようデジタルメカニズムが設計されていなければならなかった。テンセントのプラットフォームを詳しく分析すると、3つの重要なメカニズム──確認可能性、対象特定可能性、そして保護可能性──が明らかになった。これらの要素によって、リスクの高い環境下でもユーザーは安心して他者と関わることができた。

確認可能性(Verifiability)

 プラットフォームで安心してやり取りするには、相手が自称どおりの人物だと信じられることが重要であり、そのために確認可能性は不可欠であった。テンセントは、ユーザーに実名認証を義務づけることで、ユーザー間のやり取りを本人確認済みのIDと結び付けた。この互助プラットフォームが人気アプリであるウィーチャット内に構築されたことも、この仕組みの導入を後押しした。また、リクエストの対応状況を示すステータスを定期的に更新することで、プラットフォームは透明性を確保した。

 これにより詐欺が防止され、システムが意図した通りに機能しているという安心感をユーザーにもたらした。ECプラットフォームが認証された購入レビューに依拠し、ライドシェアアプリがドライバーの経歴確認を通じて信頼を構築しているように、不確実性が高まる時期や危機的状況において他者との交流を促すプラットフォームは、信頼を確立する仕組みを優先的に整備する必要がある。

ターゲティング可能性(Targetability)

 ターゲティング可能性は、ユーザーが交流の対象を絞り込み、制御するのに役立った。余剰医薬品を探しているユーザーは、膨大で無差別な投稿群に対処するのではなく、住所に基づいてフィルタリングし、近隣で手に入る支援を利用できた。また、助けを求める投稿に「高齢者」や「妊婦」といったタグをつけることで、緊急性や特別なニーズを示すことができ、支援が得られる可能性を高めた。

 ユーザーが交流範囲を狭められるようにすることで、このプラットフォームは不確実性を低減し、有意義な交流を促進し、参加の拡大につながった。他の文脈においても、オンラインプラットフォーム企業は、ターゲティング可能性を高めるという教訓を活かすことで、ユーザーが自分の快適さに応じてプラットフォームへの信頼を段階的に築けるようにすることができる。これは、ターゲットを絞った検索、コミュニティ構築機能、あるいは専門的な身元確認を通じて実現でき、ユーザーがエンゲージメントを意味のある形でセグメント化し、パーソナライズできるようにする。

保護可能性(Protectability)

 保護可能性は、プライバシーとセキュリティに関するユーザーの懸念に対応するために導入された要素であった。テンセントの医薬品共有プラットフォームでは、ユーザーが匿名の仮想番号を通じて連絡を取り合うことができ、氏名や連絡先などの個人情報を安全に保つことができた。明確な法的指針もプラットフォームに組み込まれており、許容される行動を明示し、乱用を防止した。こうした安全措置がなければ、ユーザーはみずからが危険にさらされ、リスクから守られていないと感じて、参加をためらっていた可能性がある。

 プラットフォーム管理者にとっての重要な教訓は、オンラインマーケットプレイスやコミュニティがどれほど精緻に設計されていても、プライバシーや不正防止への対策が不十分だとユーザーが感じてしまえば、関与をためらうという点である。強固なプライバシー保護、適切な紛争解決プロセス、および包括的な詐欺防止措置は、ユーザーの信頼を維持するうえで不可欠である。特に不確実性が高まる時期には、その重要性はいっそう増す。

 注目すべきは、テンセントの互助プラットフォームも、立ち上げ当初は実名認証や法的助言チャット機能といった機能が未実装、あるいは十分に整備されていなかった点である。ユーザーからのフィードバックをもとに、プラットフォームは段階的に最適化され更新されていった。こうした更新がユーザー間の信頼醸成を促進し、医薬品共有プラットフォームの継続的な利用を後押しした。

 顧客との信頼関係を構築または強化しようとするオンラインプラットフォームにとって、ステークホルダーからのフィードバックに基づき、製品やサービスを継続的に更新することは極めて重要である。いまやユーザーにとって複数のプラットフォーム間を移行するコストは極めて低くなっており、それだけに製品やサービスの継続的な改善が不可欠である。

プラットフォームへの信頼からユーザー間の信頼へ

 確認可能性、ターゲティング可能性、そして保護可能性は、互助プラットフォームへの初期的な信頼の構築に寄与したが、より注目すべきだったのは、ユーザー間に「感情的な信頼」と呼ばれる、より深い信頼がいかに急速に育まれたかである。論理や証拠に基づく信頼(たとえば、見知らぬ人の信頼性や専門性を評価すること)とは異なり、感情的な信頼は、親切さや思いやりといった感情から生まれる。プラットフォームで医薬品を受け取ったユーザーは、一度きりの利用に留まらず、困っている他者を助けるために再びプラットフォームを利用することが多かった。

 このようにコミュニティ内で感情的な信頼が育まれていくことは、プラットフォーム管理者にとって重要な意味を持つ。ユーザーがプラットフォームを単なるツールではなく、信頼できるコミュニティと見なすようになると、その関与はいっそう深まる。成功しているプラットフォームは、信頼が単にリスクを低減するだけでなく、ポジティブな体験を通じて忠誠心を育み、参加を促進するものであることを理解している。ユーザーの体験談を強調したり、親切な行為を紹介して連帯感を醸成したり、ユーザーが感情を表現できる機能を設けたりすることで、このような信頼の深化は加速される。

信頼構築の幅広いインパクト

 本研究における最も注目すべき知見の一つは、デジタルプラットフォーム上で築かれた信頼が、その枠内に留まらず外部にも波及することである。

 テンセントの互助プラットフォームで有意義なやり取りを経験したユーザーは、日常生活においても他者を信頼しようとする意欲が高まったと報告した。たとえば、あるインタビュー参加者は次のように語った。「多くの人が助けられているのを目の当たりにして、社会の温かさを感じた。私たちの社会は実は、お互いを思いやり、愛し合う気持ちに満ちているのだと感じた。プラットフォームのような機会さえあれば、人々の善意を引き出すことができるのだ」

 これは、プラットフォームが信頼構築に成功すれば、みずからのエコシステムを維持するに留まらず、デジタル空間におけるより広範な信頼文化の形成にも寄与することを示している。

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 信頼は抽象的な理想ではなく、プラットフォーム設計における具体的かつ管理可能な要素である。日常生活におけるデジタル交流の比重が増すなかで、プラットフォームの成否は、いかに信頼を構築できるかにかかっている。テンセントの互助プラットフォームの事例は、確認可能性、ターゲティング可能性、そして保護可能性が、信頼構築に不可欠な要素であることを示している。ユーザーが他者と安心して関わることができる時、デジタル空間における不確実性は、信頼に基づく新たな可能性へと転換されるのである。

"Research: How Tencent Built Trust with Users During a Moment of Upheaval," HBR.org, April 17, 2025.