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チームを高リスクな戦いに巻き込む「消防士型上司」
筆者の元上司をよく物語る出来事は、ホリデーシーズンのまっただなかに起きた。基幹となるECシステムがダウンし、オンライン決済の処理が停止する危機に陥ったのだ。それは瞬く間に経営幹部の注目を集めるほどの大惨事だった。
警報装置が鳴ると同時に、上司は行動を開始した。ベンダーに電話をかけ、休み中のエンジニアを起こし、データログを確認し、みずからコードを書き始めた。彼がリアルタイムで1行ずつ修正を組み立てていく様子を、私たちはネットワークオペレーションセンターから見守っていた。
それはスリリングで感動的だった。そして、完全に防げた事態だった。
しかし、事態が収束しても、上司の働き方は何も変わらなかった。彼は、これが初めてのことではなかったことさえ認めようとしなかった。兆候は以前からあり、安全対策を講じる機会もあった。しかし、長期的な解決策は彼にとって刺激的ではなく、あの瞬間の高揚感や称賛、アドレナリンに満ちた勝利感を得られるものではなかった。
そして数週間後、システムは再びダウンした。その時は私たちは驚かなかった。
リーダーの中には、危機に対応するだけでなく、「救世主」として混乱の中で力を発揮する人がいる。多くの場合、問題は彼らが無意識につくり出したものだ。こうした「消防士型上司」は、緊急性に基づいて動き、チームを高リスクな戦いに巻き込み、戦略よりも対応を優先し、効率よりも疲弊させる英雄的行為を好む。
ではこのような上司とどのように働き、自分のエネルギーとウェルビーイングを守るにはどうすればよいのか。拙著Have You Ever Had a Boss That...(未訳)のために行った調査に基づき、消防士型上司の下で働くと何が起こるのか、それがあなたにどう影響するのかを解説し、あなたとあなたのメンタルウェルビーイングを守るための戦略を提案する。
消防士型上司の下で働くことの代償
消防士型上司のリーダーシップスタイルは、単なる不満を超えた形で職場の文化を一変させる力を持ち、従業員に大きな心理的コストを課す。
消防士型上司にとって、仕事は物事がうまくいかなくなった時に始まる。緊急時における彼らの迅速な判断力とチームを動員する能力は、非常に貴重だが、そのリーダーシップスタイルは高い代償を伴うことが多い。チームを消耗させ、戦略的な成長を阻害し、燃え尽き症候群(バーンアウト)の文化をつくるのだ。
消防士型上司の最大の弱点は、問題解決能力ではなく、危機の発生(または危機の再発)を防がないことにある。ある研究では、危機対応型のリーダーシップが支配的な場合、従業員は次のような影響を受けることが明らかになった。
・常に緊急の状態に置かれることによって慢性的なストレスと疲労を抱える。
・優先順位がたえず変更することによる決断疲れに陥る。
・安定感の欠如に従業員が失望し、エンゲージメントの低下と離職につながる。
・長期的な成長よりも、一時的な「火災」(差し迫った問題)にチームが注力することで、戦略的な焦点が失われる。
最悪の場合、これは自己成就的予言となる。優秀な従業員が去り、消防士型上司はさらに必死にならざるをえなくなり、自分だけがすべてをまとめられるという信念を強めてしまうのだ。
筆者が観察したもう一つの重大な落とし穴は、「火災」が鎮火すると、消防士型上司が経営陣からの称賛を独占してしまうことだ。多くの場合、彼らは火を消し止めた英雄的な行為によって報われ、それが彼らの行動をさらに助長する。従業員は疲弊するだけでなく、見過ごされ、過小評価されていると感じるようになり、それによって問題が深刻化し、消防士型上司だけが救世主であるかのようなサイクルが繰り返される。
消防士型上司の下で成功する方法
消防士型上司のリーダーシップスタイルは持続可能性を重視していない。では、上司が「消防用ホース」を手放さない状況で、私たちはどう動けばよいのか。筆者の経験と著書の研究に基づき、消防士型上司の下で働く際に役立つ方法を紹介する。
緊急ではない成功を称える
消防士型上司は称賛を糧とするが、重要なのは称賛の対象を変えることだ。筆者が消防士型上司の下で働いていた時は、回避した緊急事態を記録し、幹部の会議で成果として報告するようにした。共有するデータが増えるほど、上司は危機管理ではなく危機予防に価値を見出すようになった。
消防士型上司が土壇場で危機を救った時にしか称賛を得られないと、彼らはその瞬間を再現するため危機を追い求めるようになる。そうではなく、称賛の対象を変えるようにする。事前の計画によって時間や労力、費用が節約できた瞬間を強調するのだ。たとえば、上司と話し合う時やチームミーティング中に、次のように発言するとよい。
「チームの努力を評価する新しいアプローチについて議論したいです。私たちは問題に対処した件数を称えることが多いですが、予防に焦点を移すべきだと思います。『インシデントのない日』を強調することで、事前の計画と危機予防戦略を示すことができます。この考え方は安全性と効率性を際立たせると同時に、緊急事態とそれに伴う損害を軽減することで私たちが組織にもたらす価値を認識させます」
混乱に抵抗し、冷静さを保つ
消防士型上司の率いるチームが慌ただしくなればなるほど、上司は自分のリーダーシップスタイルと事後対応的な戦術が正しいと信じるようになる。しかし、それに同調する必要はない。宣言されたすべての緊急事態に即座に対応するのではなく、境界線を設け、彼らの勢いに巻き込まれないようにすべきだ。そのためには、状況を明確にするための質問を投げかけ、データを提示し、感情的な反応よりも論理を優先する方法で状況を再構築する。
冷静さを保ち、明確で率直なコミュニケーションを取ることは、ストレス度が高い上司を管理する効果的な方法だ。冷静さを維持することで、消防士型上司が示す緊急性を緩和するだけでなく、上司に対してより慎重で分析的な対応を促すことができる。
プレッシャーが高まった場面で、筆者の上司は会議に飛び込んできて、些細なデータの不一致に対して総力を上げて対応するよう求めた。筆者は即座に行動を起こすのではなく、こう尋ねた。「15分間立ち止まって分析すれば、チーム全員が現行のプロジェクトを中断することなく解決策を見つけられるでしょうか」。これは効果的だった。筆者が冷静に対応したことで、上司は一歩下がって状況を再評価した。チームメンバーが上司の過剰なエネルギーに同調しなかったことで、上司は冷静に考え、反応的ではなく、より現実的に状況を乗り切ることができた。
緊急事態が繰り返し起こる場合、それは緊急事態ではなく、概して計画の失敗だ。消防士型上司は、問題が完全に回避可能だったとしても、危機が発生するとチームにすべての作業を投げ出して対応することを求める。このサイクルを断ち切ることが重要だ。筆者のチームはある時点で、リーダーシップが長期的な解決策への投資を約束しない限り、今後は予測可能なシステム障害のために残業はしないと交渉した。上司は、頼りだった危機対応チームを失いかけていることに気づき、ついに予防的な解決策を優先するようになった。
偽りの緊急性に巻き込まれないようにすることで、自分の時間を守るだけでなく、文化を「消防活動」から持続可能で戦略的な問題解決へとシフトさせることができる。
スピード志向を別の方向に向ける
消防士型上司は、問題がどれだけ効果的に予防されたかではなく、どれだけ迅速に解決されたかによって成功を測りがちだ。彼らの反応的な本能に対抗するよりも効果的な戦略は、事前の対策を、一連の迅速で測定可能な成功として提示し、エネルギーを長期的な成果に向けることである。
たとえば、「このシステムを刷新するには半年かかります」と言うのではなく、「3週間で事前の修正を行うことで失敗のリスクを40%削減できます」と伝える。このフレーミングは、スピードに対する彼らの欲求を満たしつつ、持続可能な改善という論理にも沿っている。重要なのは、安定性を彼らが理解できる言葉、つまり「勢い」「指標」「結果」に置き換えることだ。
筆者のある上司は、チームが「火消し」をしたことを常にほめていた。このサイクルを断ち切り、上司の考え方を変えるため、私たちチームは複雑な刷新作業を、行動指向の小さなマイルストーンに分解した。そして各段階でどのような緊急事態を防止したかを記録し、のちにこうした「起こらなかった出来事」によるコスト削減を強調した。時間をかけて予防を「進歩」と再定義し、目に見えない成果を具体的な勝利に変えていった。データが蓄積されるにつれ、消防士型上司は、真のリーダーシップは迅速に対応することではなく、チームを火災地帯から完全に脱出させることだと理解するようになった。
消防士型上司があなたのキャリアを台無しにするとは限らないが、彼らとの関わり方をコントロールしなければならない。上司が重視するものを変化させ、彼らの混乱に抵抗し、境界線を設け、彼らのエネルギーを向ける方向を変えることによって、彼らのリーダーシップの下で巻き添え被害に遭うことなく成功できる。
結局、消防士型上司に打ち勝つ最良の方法は、彼らが消火すべき火をなくすことなのだ。
"Your Boss Thrives on Chaos. Here's How to Protect Your Energy.," HBR.org, April 18, 2025.