ベンチャーキャピタリストが解説する、成功する投資仮説のつくり方
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サマリー:ベンチャーキャピタルの世界では、少数の投資家が大部分のリターンを得ている。その差別化のカギは「桁外れのリターン」を見込める投資仮説の策定にある。本稿では、コーポレートベンチャーキャピタルにおける筆者の... もっと見る実践から導かれた4つのステップにより、特定分野において優れた投資機会を見極める方法を提示する。 閉じる

成功する投資仮説はどのようにつくるのか

 2024年、ベンチャーキャピタリストたちは米国のスタートアップに2000億ドル以上の投資をした。平均すると、これらのベンチャーキャピタリストは投資に対し、約12%のリターンを得ていることになる。だが、リターンの95%を獲得したのはわずか5%の投資家だ。リターンの大部分を手に入れる一流ベンチャーキャピタリストの仲間入りをするには、何が必要なのだろうか。

 決め手となるのは、効果的な投資仮説の策定だ。投資仮説とは大まかに言うと、特定の領域における投資機会について、明確にして簡潔で、かつ実行可能な視点を列挙したものである。

 重要なのは、成功した投資のすべてがベンチャー型高リターンを達成しているとは限らないことだ。ベンチャーキャピタル(VC)の世界では、リターンが正規分布になることは期待されていない。好業績のベンチャーキャピタルファームではむしろ、大半の投資が失敗し、ほんの一握りの投資だけが投資額の50倍ものリターンをもたらすと想定している。したがって、効果的な投資仮説とは、ある投資がただ単に利益を生むというだけでなく、「桁外れのリターン」をもたらすという確信を明言するものだ。桁外れのリターンこそが、ベンチャーキャピタルの成功を示す特徴である。

 では、どうすればベンチャーキャピタリストはそのような投資仮説を策定できるのだろうか。筆者はコーポレートベンチャーキャピタル活動を行うTDKベンチャーズの社長として、40社以上の投資先企業と関わった経験から、成功する投資仮説を策定する助けとなる4ステップのアプローチを定義した。もちろん、このアプローチが唯一の方法というわけではない。とはいえ、TDKベンチャーズでは過去5年間、このプロセスを何度も反復して改善し、最も重要な本質にまで簡素化してきた。そして、この方法は私たちにとっていまに至るまで有効であることがわかった。

 本稿では、特定の分野に特化した投資仮説に焦点を絞っている。ベンチャーキャピタルファンド全体の投資仮説を定義する方法については、すでに多くの論考が発表されてきたが、本稿で探るのは、所与の投資領域や市場区分における具体的な投資機会をベンチャーキャピタリストがどのように評価するのかという点である。言い換えると、ファンドレベルの投資仮説が「どの海で釣りをするかを決める」ことだとすれば、分野特化型のテーゼは「その海でどの魚をターゲットとし、どのような道具を使うかを決める」ことに似ている。

 実際、こうしたベストプラクティスは利益をもたらすテーゼを見極めるために役立ってきた。私たちは過去2年間、まさにこのアプローチによってすべての潜在的な投資機会を分析してきた。たとえば工業加熱の領域で高温蓄熱ソリューションが成功する可能性の高さを見極めた。このソリューションは再現性のある形で顧客に導入でき、なおかつ電力系統からより有利な電力価格を引き出せる。

 こうした投資仮説に到達するために用いている4つのステップを紹介しよう。合わせて、このアプローチを使った最近の実世界でのケーススタディを紹介したい。電力系統技術業界の市場リーダーになる資質を備えたスタートアップを特定したケースである。

1. 既知のことを明確にする

 何がわかっているかを明確に定義することは、投資仮説の土台になる。最初のステップは、特定の領域における投資機会について、十分に理解されているファクトを明確にすることだ。以下のような問いを立ててみよう。

・市場の現状はどうか。
・関連テクノロジーの現状はどうか。
・現在、どのような規制や政策がこの領域を規定しているか。
・新規参入者が直面する最大の問題は何か。

 重要なのは、単に「投資が適切である理由」を定義することだけが目的ではないという点だ。作成中の投資仮説の主な限界を認識することも不可欠である。直面する可能性のある既知のマイナス面は、潜在的なプラス面と同じくらい重要だ。それゆえ最初の段階から、良い面と悪い面の両方を意識することが大切なのである。