形骸化しつつあるDEIの取り組みを時代に合ったモデルに更新する
Illustration by Alex Eben Meyer
サマリー:いま、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)に関する取り組みを終了させようとする声が高まっている。だが、これまで広く採用されてきたDEIモデルの多くは、しばしば不適切な指標に焦点を当て、縦割... もっと見るりで汎用的すぎるトレーニングに依存しており、DEIの実践が具体的な業務目標や組織の価値とどのように整合しているかを明確に伝えてこなかった。リーダーは反DEIの流れに追従するのではなく、より大きなインパクトと組織目標との整合性を実現するために、DEIモデルの再定義と洗練に向けた大胆な行動を取るべきである。本稿では、時代遅れとなった3つのDEIモデルと、筆者らの研究に基づいた3つの最新アプローチを紹介する。 閉じる

DEIの3つの最新アプローチ

 DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)をめぐる最近の議論では、その実践には根本的な欠陥がある、あるいは完全に不要なものとして捉えられることが多い。しかし、この二元的な視点は、はるかに複雑な現実を単純化しすぎている。研究と実践的な経験から明らかになったこととして、一部のDEIイニシアティブは個人の偏見や制度的な障壁に対する認識を改善することに成功したが、効果が十分でなかったり、場合によっては意図しないネガティブな結果を招いた取り組みもあるのである。

 この重要な局面において、リーダーはDEIイニシアティブを放棄したいという誘惑に抗うべきである。研究が示している通り、これらのイニシアティブは、新しい市場へのアクセスやイノベーションを含む、従業員および組織の多様な成果の向上に役立つ。リーダーはこの機会を活用して、効果のないモデルを近代化すべきである。DEIの正当性に関する議論に巻き込まれるのではなく、すべての従業員にとっての有効性を高めることに注力すべきである。

 本稿では、広く採用されているが効果的ではない、時代遅れとなった3つのDEIモデルを取り上げる。これらのモデルは、組織の抵抗、世論の反発、法規制の後退を引き起こしてきた。また、研究と、筆者たちの経営学者としての専門知識および多様性実務の経験に基づき、3つの最新のアプローチを紹介する。これらの新しいモデルは、組織のリーダーに明確な指針を提供し、彼らが直面する課題と、今後活用していく機会とをより適切に一致させるために設計されている。

1. 進捗の指標は従業員数ではなく、組織の価値観と一致させる

 リーダーは、DEIが公平な代表性、アクセス、処遇を含む多面的な課題であることを認識しているが、組織はしばしばこの複雑さを従業員数という単純な指標に矮小化してしまう。

 従業員数をはじめとする定量的な指標に過度に依存することは、進捗を客観的に測定しようとする、組織に広く見られる当然の傾向を反映している。しかし、運用指標が洞察のための手段ではなく目的そのものになると、組織が本来目指していた、より深く意義のある変化を見失うおそれがある。

 さらに、DEIの成功の主要指標として従業員数を優先することは、意図せずマネジャーの裁量を制限しかねない。研究によると、採用や昇進における柔軟性を失うことは、反発や不満を生みやすくし、意味のある多様性の改善を妨げる可能性がある。たとえ善意に基づくものであっても、DEIの厳格な数値目標はマネジャーの抵抗を招き、彼らの関与を弱め、最終的に取り組み全体の進展を阻むおそれがある。

 組織は、進捗の追跡と評価の方法においてバランスを取る必要がある。市場シェア、株価の成長、収益性、売上高、コスト削減、ブランド価値といった指標は、ステークホルダーにビジネスの価値を示すうえで極めて重要である。