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リーダーは自分の共感力を過大評価している
筆者が最近、ある大手グローバル企業のためにリーダーシップコミュニケーションのセミナーを設計した時のことだ。プログラムの計画案に共感(エンパシー)に関するセッションが含まれているのを知った同社のCEOは、こう言った。「何だって。共感がよいものだというのは、誰もが知っています。ですが、そうした感情的なことを取り上げるのには、違和感があります」
リーダーはえてして、自分の共感力を過大評価している。たとえば、「2024年版 職場の共感に関する報告書」によると、「CEOの55%は、自分が職場で共感力を発揮してリーダーシップを振るえていると思っているが、そのように考えている従業員はわずか28%、人事担当者は22%にすぎない」という。
冒頭の企業とは別の企業でリーダーシップに関するワークショップを行った際、ある参加者がこう述べた。「セラピストのように他の人たちの感情を聞かされると、どうしても居心地が悪く感じてしまいます。部下に対してそうしたやり方を試みたこともあるのですが、自分を偽っているような感覚にとらわれました。それに、周囲の反応もいま一つでした」
共感力は、リーダーにとってけっして欠くことのできないスキルだ。共感力を発揮できず、部下にその手本を示せない場合、失うものは極めて大きい。
共感を些末なものとして軽視すれば、ネガティブな結果を招きかねない。有害な職場環境が生まれたり、働き手の士気が低下したり、退職率が上昇したり、燃え尽き(バーンアウト)が起きやすくなったりする可能性がある。リーダーは、部下との絆を育めず、情報が集まらなくなり、近寄り難い人物という印象を持たれかねない。
前出のワークショップ参加者は、360度評価で厳しい評価を受けた。メンバーに対する姿勢が「あまりにぶっきらぼう」で、一歩間違えれば「攻撃的」だと指摘されたのだ。部下がこの人物に情報やアイデアを共有しようとしない理由の一端もこの点にあった。
職場で共感を軽視するという選択は、効率のよい近道のように思えるかもしれない。しかし、研究によると、難しい状況を乗り切り、メンバーのエンゲージメントを強化しようと思えば、共感力を発揮し、職場における有効な絆、コミュニケーション、コラボレーションを生み出すことが不可欠だ。
42件の実証研究について体系的文献レビューを実施した最近の論文によれば、共感力の強いリーダーがいる組織は、働き手のエンゲージメントが高く、退職率が低い傾向があるという。不確実性と危機の時代を乗り切るうえでは、リーダーが共感力を発揮できることは極めて重要なのだ。
それにもかかわらず、リーダーたちは、共感とはどのようなものか(そして、どのようなものではないか)、どうすれば実践できるのかをなかなか理解できずにいる。しかも、多くの人は、共感力を発揮することに抵抗感を持つ。そのような傾向は、文化やジェンダーにまつわる固定観念の影響が及ぶケースで、とりわけ際立っている。
男性のリーダーは、共感力を発揮すると「男らしくない」と思われるのではないかと恐れる場合がある。それに対し、女性のリーダーは、感情的だとか、成果を軽んじていると思われるのではないかと心配する可能性がある。こうした思考により、共感を抑え込む人もいるだろう。また、脳の発達や機能が定型的でない人の中には、共感力を発揮することを難しく感じる人や、共感を示そうとすると疲労困憊してしまう人もいる。
リーダーシップとは、他者を通じて成果を挙げることである。そして、他者たちを動かし、つながり、関わるうえでは、共感が欠かせない。そこで本稿では、リーダーが職場で適切に共感力を発揮するために有効な6つの戦略を紹介する。
共感に関するプロトコルを確立する
共感という言葉が明確に定義されていなければ、その意味が曖昧になったり、あるいは実質的に何も意味をなさなくなったりして、リーダーの取る行動に悪影響が及ぶ(というより、リーダーが何もしないという結果を招くおそれもある)。
筆者のクライアントであるCEOの場合もそうだった。そのCEOと同社の幹部チームは、基本的には共感の価値を認めていた。しかし、共感を「甘やかし」もしくは「セラピー」のようなものと見なしていたために、共感を実践することに腰が引けていた。