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なぜ顧客はチャットボットより人間との対話を好むのか
AIチャットボットの使用は、商品の問い合わせや苦情、払い戻しの対応において新たな標準になりつつある。そこでのやり取りは、顧客満足度やブランド認知、販売に重大な影響を及ぼす。最近のある調査によると、顧客サービスを担当するリーダーの85%は、すでにAIによる顧客対応ソリューションの導入を検討している。まだあなたの会社に導入されていなくても、早晩、そうなる可能性が高い。
ところが、顧客はチャットボットとの対話に失望して背を向けつつある。調査によると、回答者の77%はチャットボットにフラストレーションを覚え、88%はやはり人間と話すほうがよいと感じている。
ほとんどの企業は、より優れたモデルをチャットボットに組み込むことによって、この問題を解決しようとしている。もしAIモデルが十分に人間らしく感じられるものになれば、やがて問題は解消すると考えているのだ。だが、この想定には無理がある。チャットボットが現実の人間をほぼ完璧に模倣できても(最近のブラインド方式のチューリングテストでは、73%の回答者がチャットGPT-4.5を人間と間違えた)、顧客はやはりチャットボットを好まない。
それは、根本にあるのがテクノロジーではなく心理的な問題だからだ。チャットボットとの対話についてのある研究において、顧客が人間とチャットボットの両方とまったく同じ会話をしたところ、彼らの自己申告の結果では、チャットボットとの対話の満足度は人間との対話より8.5%低かった。ところが、チャットボットの利点(「即時回答」「24時間利用可能」など)を明確に強調して提供すると、一転して、スピードや利用しやすさで劣る人間のエージェントよりも、チャットボットの満足度のほうが37%も高くなった。
筆者らは最近、チャットボットおよびAIと人間の相互作用に関する最新の研究を分析し、それをもとにして、顧客の満足度やポジティブなブランド認知、販売を促進するのに効果的なAIチャットボットの実践ガイドを作成した。本稿では、あなたのチャットボットをよりよくするために、次の6つの方法をお勧めしたい。
チャットボットが「継続学習中」であることを表示する
人々は、ただ賢いAIチャットボットがほしいのではない。ますます賢くなるチャットボットを求めているのだ。研究によると、チャットボットに「継続学習中」と表示すると、顧客がチャットボットの提案に従う可能性が、静的アルゴリズムよりも、さらには人間のエージェントに比べても最大17%高くなるという。
もしそうした表示がなければ、顧客はAIのアドバイスを古い情報か、ある時点で止まった情報だと思い、信用しないことがある。「最終更新2023年」などの固定的な表現は避けたほうがよい。むしろ、あなたのチャットボットが新しいデータとフィードバックで継続的に改善していることを強調しよう。これは、熱心な新入社員と一緒に仕事をする時と似ている。人々は小さなミスを許す心づもりがあり、やり取りを重ねるたびに前回よりも向上していることを好意的に評価する。
チャットボットの精度を証明する
顧客は技術的な説明ではなく具体的な結果を信じる。あなたのAIチャットボットが実際によく機能する証拠を見せよう。現実世界での成功例を示すと、信頼性と期待される精度は最大22%向上する。「本日は4500件の問い合わせを94%の精度で処理しました」「98%のお客様が、これが役に立ったと評価しています」のような指標を提示しよう。
「お客様の声」に似たようなものと考えるとよい。「この食洗機で100万枚以上の皿を洗いましたが、問題はありませんでした」という証言は、すすぎのサイクルの仕組みを事細かに説明するよりも、はるかに説得力がある。AIに関しては、さまざまな約束よりも、実際の証拠のほうが信頼されるのだ。
お世辞を入れる時は、慎重に
さりげなくほめ言葉を入れると、レコメンデーションの説得力が増す。「そう、このハンドバッグはあなたのおしゃれなスタイルにぴったりです」と言われれば、人は悪い気はしないもので、商品のレコメンデーションを受け入れる可能性が最大12.5%高くなる。
だが一つ、大切な警告がある。もしそのお世辞があまりに人間臭く感じられると、裏目に出るかもしれない。過度に個人に向けた語り口は、かえって疑念を引き起こし、顧客は操られているように感じる。ほめ言葉は事実に基づいて、淡々と伝え、顧客がAIに期待する客観的なトーンと一致させよう。
不正行為を減らすために、人間のように振る舞う
顧客はチャットボットとの対話では、いつもと違う行動を取ることがある。それがよりよい行動とは限らない。研究によると、顧客はチャットボットとのやり取りでは人間のエージェントの場合と比べ、最大35%も非倫理的な行動を取りやすくなる(払い戻しを受けるために嘘をつくなど)。機械とのやり取りでは人格的に関わる意識が薄くなり、後ろめたさが少なくなる。
対策としては、そうした状況において、より人間的な接し方をするようにAIチャットボットをプログラミングすることが挙げられる。親しみのある言葉遣い、共感的な言い回し、「それは大変」とか「なるほど」などの自然な相槌は感情的なつながりをつくり出すのに役立つ。すると後ろめたさが増して、非倫理的な行動が約20%減少する。
怒っている顧客や急いでいる顧客に対しては、要点のみに集中する
怒っている顧客や急いでいる顧客は、共感ではなく、迅速さと明快さを求めている。研究によると、顧客が怒っている場合、人間的なチャットボットとの対話は、単刀直入で機械的なチャットボットとの対話に比べて、満足度が23%低かった。
フライトが欠航になって再予約する時など、強いストレスがかかっている時、人間的な応答は効果的ではない。顧客は期待のレベルを上げ、それが満たされないと、ますますフラストレーションが高まるからだ。怒りや緊急性を感知したら、迅速に、明快に、直接的に応答するようにチャットボットをプログラミングしよう。こうした状況では、ちっとも「人間らしく感じられない」ほうがよい。
ポジティブな決定は、人間的な伝え方をする
チャットボットがよい知らせ、たとえばローンの承認や払い戻し、無料アップグレードを伝える時は、人間的で温かみのある対応にしよう。人間的なチャットボットがポジティブな結果を伝えた場合、企業に対する顧客の評価は8%向上した。
人はポジティブな結果は自分自身や自分の資質(「私が素晴らしいからだ」)によるものと思い、ネガティブな結果は外的要因のせいにする傾向がある。人間的なチャットボットはこうした感情の高まりを利用して増幅させる。「こんにちは、アバです。素晴らしいお知らせです。あなたはプレミアムプログラムに参加する資格を認められました」と言われると、単に「あなたは承認されました」と言われるよりも、ずっと大きな価値を得たように感じられる。
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チャットボットの次なる飛躍は、より優れたAIモデルのみでは生まれない。AIに関しては、顧客体験はもはや技術的問題ではなく、人間心理の問題だということを認識する必要がある。チャットボットは顧客のアシスタントであるだけではなく、あなたの会社のブランドアンバサダーであり、顧客が再びあなたの会社から購入するかどうかのカギを握っている。だからこそ、顧客を満足させ、販売を促進するようにチャットボットを設計することが大切である。
"Fixing Chatbots Requires Psychology, Not Technology," HBR.org, May 12, 2025.






