リーダーに最も求められるスキルは、ただ寄り添うことである
Nikada/Getty Images
サマリー:リーダーは、ストレスを抱える従業員から悩みを打ち明けられると、問題をすぐに解決しようとする傾向がある。しかし、まず求められるのは問題解決ではなく、調和や寄り添う姿勢だ。感情に寄り添い、共感を示すことで... もっと見る、信頼関係や生産性が高まる。調和は誰もが身につけられるスキルだが、多くのリーダーは時間の制約や自身のストレスにより、実践できていない。本稿では、調和の重要性とその実践方法を5つのステップで解説し、従業員とのつながりを深めるリーダーシップのあり方を示す。 閉じる

リーダーに求められるのは問題解決ではなく「調和」

 アレックスが私のオフィスに来て、重圧で押し潰されそうだと言った時、「よし、私の助けが必要なんだな。彼女は答えを求めている」と私は思った。だから、その話に耳を傾け、いくつか確認の質問をしたうえで、自分が訓練されてきたことをやった。つまり問題を解決したのだ。ペンを取り、問題をいくつかのパートに分けて、戦略を提案した。他の人にさらに仕事を任せて、自分の時間を確保し、優先順位をつける。彼女がもがいているのがわかったから、役に立ちたかった。
 ところが、私が話しているうちに、彼女の目に変化が起きた。安堵するどころか、ますます遠ざかっていくような感じだ。私は彼女の助けになっていると思っていたが、まるでさらに荷が重くなったかのように、黙り込んでしまった。その時は気がつかなかったのだが、彼女が必要としていたのは私の戦略ではなく、私の存在だった。問題を解決してもらうのではなく、共感してほしかったのだ。

 これは筆者らがコーチングをした、あるリーダーの話だ。押し潰されそうなチームメンバーを真剣にサポートしようとしたものの、必要とされていたのは専門知識でも効率でもなく、調和だったことに気がついたという。筆者らはリーダーシップコーチや心理学者として、調和こそが、リーダーが従業員をサポートする手段になりうることを発見した。ただ、その定義や、なぜ、いつ有益になるのか、そしてどうすればうまく実践できるのかを知る人は、あまりにも少ない。

調和とは何か

 解決策に飛びつき、感情を矮小化する伝統的なリーダーシップとは異なり、調和で重要なのは相手に寄り添うことであって、相手のやり方や状況を是正することではない。調和とは、全身を使う作業であり、一方的な評価を押しつけない寄り添い方だ。それは、リーダーが従業員に深く配慮し、積極的に耳を傾け、「君のことが見えている」「君の言っていることが理解できる」「ここでは安全だ」と合図を送ることである。調和するリーダーは、相手の感情を変えようとするのではなく、それを受け入れる。

 調和では、リーダーはその物腰(アイコンタクト、身振り手振り、落ち着きなど)によって、支持を伝えることができる。研究によると、この種の社会的サポートがあると、ストレスフルな状況の受け止め方が劇的に変わるという。実際、次のステップに進む前に調和を示すと、将来、解決策の効果を高めることができる。リーダーがしっかり見てくれていると感じられると、従業員は動物的な危機モードを脱して、つながりを感じ、明晰で献身的なモードへと移行できる。

 調和は、柔和になるものでも、消極的になるものでもない。贅沢なものでもない。それは仕事に圧倒され、働きすぎている時の、迅速で強力なリーダーシップスキルだ。

なぜいま、調和が重要なのか

 従業員はストレスにさらされている。2025年2月にギャラップが発表した従業員のウェルビーイング調査によると、米国の労働者の52%が多くのストレスを感じており、44%が強い不安を感じ、24%が深い悲しみを抱えており、22%が強い怒りを感じていると答えた。

 もちろん、リーダーはセラピストではないが、従業員の気持ちを無視するわけにはいかない。ネガティブな感情は、生産性と成果に大きな打撃を与える。そのため、従業員のフラストレーションや心配、重圧にリーダーがどう対処するかは、あなたが思っている以上に重要なのだ。リーダーが自分の感情的なウェルビーイングを気にかけてくれていると感じた従業員は、エンゲージメントが高まり、満足感も増す。また、自分が所属する組織を支持し、優れた働きぶりを示し、その会社に留まり、自発的にプラスアルファの努力をし、市民的な振る舞いをする可能性も高まる。

 筆者らの経験では、従業員に調和を示したリーダーは、その結果に驚くことが多い。つながりが深まり、消極性が低下する。抵抗は可能性にとって変わり、孤立は帰属意識に変わる。何より、リーダー側の努力は最小限と感じられるのに、従業員に現実的かつ永続的な変化を起こすことができる。

 あるシニアリーダーは、企業合併の時、困難に直面した。目に見えて不安そうな従業員が、自分は仕事を失うのかと恐怖を口にした。そのリーダーは、大丈夫と言うことはできなかった。だが、急いで安心させたり、次のステップを説明したりする代わりに、従業員の恐怖を認め、口を挟まずに耳を傾け、沈黙が続くのを許した。地に足をつけて、その場に意識を集中した。その静かな認識の瞬間は、不透明性を払拭したわけではないが、その従業員の感じ方を変えた。彼は、リーダーに支えられていて、一人ぼっちではないと感じたと、のちに語っている。それからの数週間、仕事に集中して、熱心に取り組むには、十分なサポートだった。

なぜリーダーは調和を示すのに苦労するのか

 調和はコストがかからず、誰にでもできることなのに、なぜより多くのリーダーが実践しないのか。それは、複数の要因が邪魔をするからだ。

1. 模範の欠如。多くのリーダーは、権威のある人から一方的に評価を押しつけられずに、深く耳を傾けてもらった経験がない。だから自分も自然にそれができない。一般的に、学校でも、人の言葉に耳を傾けることや、ましてや感情的な寄り添い方は教えられない。

2. 問題解決に走る本能。リーダーは問題に直面すると、不満を抱いて座っているのではなく、解決に乗り出すよう訓練されている。だが、従業員は多くの場合、解決策よりも先に、サポートを必要としている。

3. 時間不足。なかには、調和なんて仕事の邪魔になると考えるリーダーもいる(実際には、抵抗感を払拭し、信頼関係を醸成し、生産性を解き放つことで、仕事を円滑にする)。

4. リーダーの燃え尽き。リーダー自身が慢性的にストレスにさらされていると、他者に調和を示すことができない。過酷な仕事量や個人的なトラウマのために、「闘争、逃走、またはフリーズ」モードに陥ったままで、誰かの感情に気づく余裕がなくなることがある。

5. デジタルコミュニケーション。スラックやメール、テキストでは、自然な調和を招く身体的合図を得られない。言葉では寄り添っていることを伝えるのは難しい。

 さらに、リーダーが調和するタイミングがわからない場合もある。筆者らの研究では、理想的なタイミングは一対一の会話をする時、相手がフラストレーションや悲しみ、怒り、不安に圧倒されていると感じた時、あるいは逆に元気がなく、感情がマヒし、呆然としているような時だろう。多くの場合、頭で問題を理解する前に、体に不調が生じるものだ。混乱や緊張を体で感じるかもしれないし、自分と相手との間に、明らかな距離があることに気づくかもしれない。まるで別々の世界にいるかのように。このような時こそ、リーダーが心身ともに寄り添っていることを示すべきだ。

 テキストやメール、スラックで調和を示そうとしないこと。対面または動画でするのが一番よい。人間の神経系は、表情や声色、姿勢、呼吸などのリアルタイムの身体的シグナルに基づいて、バランスを取るようにできている。こうしたデータがなければ、感情的なつながりをつくろうとしても失敗に終わりやすい。

 ただ、すべての会話に調和が必要なわけではないことを覚えておこう。従業員が戦術的なインプットや計画、具体的なタスクについてフィードバックを求めている時は、解決策を中心とする対応をすべきだ。

調和のための5つのステップ

 幸いなことに、調和はどのようなリーダーも学習でき、必要に応じて応用できるリーダーシップスキルだ。それは、次の5つのステップから始まる。

1. 狙いを定める

 調和は決断から始まる。「私がここにいるのは、相手の話に耳を傾けるためであって、判断したり修正したりするためではない」と言う決断だ。批評や助言、計画、あるいは救済したくなる気持ちは脇に置こう。従業員に寄り添う準備をすること。彼らのために何かをする準備ではない。

・「彼らが安心できる空間をつくるぞ」と、自分に言い聞かせる。

・「私はここにいる。君は一人ぼっちではない。君の話を聞いて、理解したい。何が起こっているか教えてくれ」と言う。

・答えを持っていなければならないというプレッシャーから自分を解き放つ。あなたがいるだけで十分だ。

2. 静けさへと移行する

 リーダーの感情の状態は伝播する。あなたが緊張していたり、急いでいたりすると、従業員はそれを感じ取る。調和を示すには、あなたの態度がコントロールされていること、つまり、反応せずに相手の経験を吸収し、考えるだけの落ち着きが必要だ。

・意識的に深呼吸をする。横隔膜まで息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出す。ボックス呼吸でもよい。4秒間息を吸い込み、4秒間息を止め、4秒間かけて吐き出し、4秒間息を止める、というものだ。

・気が散る原因になるものをしまう。スマートフォンをしまい、コンピューターを閉じよう。

・散歩ミーティングをする。すると脳の両半球が活性化して、ストレスフルな感情の処理を助けてくれる。また、感情的な合図に気づくこともできる。さらに、歩くことは神経系を同期させる役にも立つ。

・あまりにも意識を集中できなかったり、調子が悪かったりする時は、ミーティングの延期を検討しよう。「重要なことだから、君たちにきちんと寄り添いたい。午後3時に時間を変更できるかな」といった言い方ができるだろう。

3. 好奇心を維持する

 好奇心は、一方的な評価の防御手段になる。思い込みではなく、従業員との会話は、先入観を排して、オープンな姿勢で臨もう。あなたの仕事は、彼らの経験を理解することであり、あなたの視点を押しつけることではない。

・自問する。私はどのようなことを学べるだろう。どのような驚きがあるだろう。

・「一番大変なことは何だったか」や「どのような感じだったかもっと聞かせてほしい」といった言い方ができるだろう。

・問題解決を停止して、相手の言葉の裏にある感情に耳を傾けよう。

4. 全身で耳を傾ける

 調和とは、言葉を聞くだけではなく、全体像を吸収することだ。声色や身振り手振り、言葉にならない感情を聞き取ろう。リーダーが自分の話に耳を傾けてくれていると感じた従業員は、神経系がリラックスして、感情を代謝させて、先に進めるようになる。

・頷き、ソフトに視線を合わせ、相手の感情をさりげなく模倣する。

・キーフレーズを振り返る。「イライラしているようだね。だって……」あるいは「もっと聞かせてください」

・「私も君とまったく同じ気持ちになったことがある」(そのようなことはありえない)とか「明るい側面を見ようよ」(問題の矮小化)といった表現を避ける。

・沈黙を受け入れる余裕を持つ。

5. 振り返りを提案する

 従業員の感情が落ち着いたら、その経験を振り返り、次のステップを一緒に考えよう。こうすると、彼らの自己調整能力と問題解決能力を強化できる。

・「少し気持ちが落ち着いたようだね」などと話しかけてみよう。

・「いまはどのような気分か」「何かはっきりしたことはあるか」「いま一番必要なことは何か」などと声をかけよう。

・終了の言葉を提示する。「この話をしてくれてありがとう」とか「君の気持ちを知るのは、私にとって重要なことだ」など。

・従業員の言語的・非言語的な変化と、あなた自身の身体的な変化に気づき、それを調和のパワーに関する自分へのフィードバックとする。

リーダーシップの波及効果

 リーダーが調和を実践すると、従業員は自分の声に耳を傾けてもらっていると感じるだけでなく、しっかり支えられていると感じる。混沌が増している世界で、それは無気力かレジリエンス(再起力)かの違いを決定づける。

 リーダーとしてのあなたの存在は、それだけでパワフルなものだ。完璧な言葉は必ずしも必要ではない。また、必ずしもすべてを解決する必要はない。ただ、オープンな姿勢と落ち着いた態度、好奇心、そして気づく意欲を持って、あなたの姿勢を示すことが重要なのだ。


"When the Best Leadership Skill Is Just Being Present," HBR.org, May 19, 2025.