人型ロボット導入を成功に導く5つの視点
HBR Staff
サマリー:ヒューマノイドロボットは、生成AIやメカトロニクス、シミュレーション技術の飛躍的な進展によって、従来の産業用ロボットとは異なる次元の汎用性と柔軟性を備えつつある。いまや製造、医療、サービスといった幅広い... もっと見る分野において、現実的な選択肢になった。本稿では、ヒューマノイドロボットの導入に向けて経営層が検討すべき5つの視点を提示し、その導入に際して求められる、役割の明確化、投資対効果の検討、安全確保、業務への統合、訓練手法といった観点を体系的に整理する。 閉じる

ヒューマノイドロボットへの投資をいかに判断すべきか

 汎用ヒューマノイドロボット(GPR)の急速な進化は、生成AI、メカトロニクス、シミュレーション技術の進展により推進されており、産業全体における労働力のダイナミクスを再構築する可能性がある。

 従来のロボットは、工場などの制御された産業環境において特定のタスクを実行するために設計されてきたが、汎用ヒューマノイドロボットは、製造現場から病院、ホテルに至るまで、再構成や再プログラミングをほとんど必要とせずに多様なタスクを遂行することができる。人間の体に似た構造を備えていることから、人間のために設計された環境への適応性が高く、多くの企業の予想を上回る速さで人間との協働が可能になると考えられる。

 ヒューマノイドロボット工学における最近の進歩は、単一の技術的飛躍によるものではなく、より安価で高度なハードウェアとソフトウェアの融合によって実現されたものである。主要企業は、ヒューマノイドロボットの大量展開を可能にするための投資を強化している。

 たとえば、エヌビディアの「GR00T Blueprint」(GR00Tブループリント)は、さまざまなヒューマノイドロボットモデルに対応したシミュレーション訓練のスケーラビリティを高めている。テスラの「Optimus」(オプティマス)は、同社の工場において組み立て作業やリアルタイム在庫管理に従事しているとされ、2026年にも外部への提供が始まりそうだ。

 筆者たちの研究とプロジェクトは、ヒューマノイドロボットがよりスマートな自動化を促進し、コスト削減および人間の労働生産性の向上に貢献しうることを示している。ヒューマノイドロボットの製造コストは、ここ数年で40%低下しており、生産規模の拡大とともに今後も下がり続ける見込みである。2032年までに、1台当たりのコストは約5万8000ドルから2万ドルにまで下がると予測されている。

 ヒューマノイドロボットのトレーニングも効率化が進んでおり、それが価格の低下に大きく貢献している。従来、新しいスキル(たとえば服をたたむなど)を習得するには約500時間のデータが必要とされたが、Figure AIの新しい視覚・言語・動作(VLA)モデル「Helix」(ヘリックス)は、同じ時間で複数のタスクを習得できる。

 コストの低下と関心の高まりは、ベンチャーキャピタルによる投資を活発化させている。現在、世界中で160社を超えるヒューマノイドロボットメーカーが活動しており、中国に60社以上、米国に30社、欧州に40社が拠点を構えている。2040年までに年間出荷台数が800万台に達するとの予測もあり、ヒューマノイドロボットの急速な普及とその影響力を示唆している。

 ただし、適切な検討を行わずにヒューマノイドロボットへ投資すれば、導入コストが膨らみ、逆効果となるおそれがある。普及への道には多くの課題が伴う。ハードウェアの統合、エネルギー貯蔵、安全性、人間とロボットの協働の複雑さなど技術的な障壁が存在し、加えて、AIの利用や将来の労働に関する倫理的懸念も複雑さを増している。

 経営陣は、ヒューマノイドロボットへの投資の是非をどのように判断すべきか。筆者たちは、そのために検討すべき5つの問いを提示する。

1. ヒューマノイドロボットは自社のビジネスでどのような役割を担うことができるか

 まず、経営陣は、ヒューマノイドロボットが自社の業務において担いうる具体的な役割を評価する必要がある。この評価は、次の2つの基本的な問いによって導かれるべきである。第1に、ヒューマノイドロボットは従来の産業用ロボットよりも何をより効果的に実行できるのか。第2に、どのような場面でヒューマノイドロボットが人間よりも高い価値を提供できるのか。