「どこに住むか」がいまなお人生を大きく左右する理由
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サマリー:「クリエイティブ・クラス」という概念を提唱し、都市の成長とイノベーションの関係を世界に問い続けてきた都市経済学者リチャード・フロリダ。彼は、「世界はフラットになった」とする近年の言説にあえて異を唱える... もっと見る。「世界はけっしてフラットではない」。どこに住むかという選択が、人生のあらゆる側面に長期的かつ重大な影響を及ぼすのだ。本稿では、フロリダが『クリエイティブ都市論』日本語版のために寄せた序文を紹介する。なお本稿は、2009年に刊行された『クリエイティブ都市論』(ダイヤモンド社)からの抜粋を再編集したものである。 閉じる

世界はフラットではない、スパイキーだ

 交通網の拡大とテクノロジーの発展によって、私たちは都市から解放され、田舎や山奥、海のそばへ移ることが可能になるだろう──この数十年、いや過去1世紀の大半にわたって、そんな話を聞かされてきた。山荘や浜辺の別荘で在宅勤務できる時代にあって、狭い割には値段の高い物件に家族を住まわせ、長距離通勤に耐えてまで、東京の窮屈なオフィスで働きたいと望む人はいるだろうか。

 ほんの数年前、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマンは、「世界はフラットになった。経済競争の舞台は平均化し、住む場所をどこに選ぼうともグローバル経済に参加できる」と公言した。

 しかし私は20年以上の研究と調査に基づき、「世界はフラットではない」とあえて言いたい。実際、新しい表現も考えた。現実の世界は鋭い凹凸があって「スパイキー」なのである。

スパイキーな世界の頂点にある日本

 日本の経営コンサルタントの大前研一は何年も前に、こうした実態の解明に少なからず貢献してきた。かつて大前は、グローバリゼーションから見た時の経済的な主要単位は、従来の「国民国家」から彼が定義するところの「地域国家」に移ったと記している。これに先立つこと数十年前、経済地理学者のジャン・ゴットマンは、ボストンからニューヨーク、ワシントンに地域を拡大しながら台頭するアメリカ東海岸の巨大都市圏を「メガロポリス」と称した。一方、私はこうした新たな経済単位を「メガ地域」と呼んでいる。メガ地域が構成する新たなスパイキーな世界において、日本はまさに頂点に位置している。

 スパイキーな世界が実際にどのように機能しているかをより正確に知るために、私の研究チームは、夜間の地球の様子を撮影した衛星写真を基に新たなデータを作成し、グローバル経済は概ね20から30のメガ地域が担っているとする結論を導いた。これらメガ地域の人口は全世界の5分の1にも満たないが、経済活動の3分の2とイノベーションの8割を産出している。また、メガ地域の上位10地域の人口は全世界の6.5パーセントにすぎないが、経済活動の4割以上とイノベーションの半分以上を独占している。

 スパイキーな世界の頂点に立つ日本は、メガ地域上位5地域のうち2つを有している。「広域東京圏」の経済規模は世界最大級の2.5兆ドル、「大阪=名古屋」の経済活動は世界第5位の1.4兆ドルであり、ロンドンを含むメガ地域「ロン=リード=チェスター」をも上回る。「九州北部」や「広域札幌圏」も世界の主要メガ地域に名を連ねている。

 実際、私たちが観察した衛星写真は、日本が世界的にもメガ地域の発達した国であることを示唆している。日本国内にある4つのメガ地域は文字どおり混じり合い、互いに連結することで、一つの「スーパー・メガ地域」を構成しようとしているのだ。

 (日本では2009年に発行された)本書『クリエイティブ都市論』の内容は、日本企業および日本社会の実態に即している。今後どこに投資すべきか。経済活動や人材獲得の巨大な拠点となる新しい施設をどこに建設すべきか。新製品をどの市場に売り込むべきか。これらの事柄を戦略的に考えるための新たな世界地図を、日本企業は本書を通じて知ることであろう。日本の一般読者も、本書から居住地を選ぶための新たな知識を得るであろう。

 職業やキャリアの選択、あるいは伴侶を見つけることが人生にとってどれだけ重要か、私たちのだれもが認識している。すなわち「何を」「だれと」行うかという選択だ。そのうえで第三の大きな選択となるのは、私たち自身と家族が「どこに」住むかということである。この第三の決断は、人生のあらゆる側面に対して重大かつ長期的な影響をおよぼす。否、住む場所こそ職業的成功や仕事上の人脈から、幸福感や快適な暮らしに至るまでの全てを決定するのである。

2008年9月 トロントにて
リチャード・フロリダ

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『クリエイティブ都市論』

[著者]リチャード・フロリダ
[翻訳者]井口典夫
[内容紹介]「クリエイティブ・クラス」という新たな経済の支配階級の動向から、グローバル経済における地域間競争の変質を読み取り、世界中から注目を浴びた都市経済学者リチャード・フロリダ。2008年に発表された本書は、クリエイティブ・クラスが主導する経済において、先端的な経済発展はメガ地域に集中し、相似形になっていく世界都市の現実と近未来像を描いている。さらに、クリエイティブ・クラスにとって、いまや自己実現の重要な手段となっている居住地の選択について、独自の経済分析、性格心理学の知見を使って実践的に解説する。

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