AIエージェントを新たな「人材」として迎えるための指針
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サマリー:AIエージェントは、単なる補助的存在を超え、新たな「人材」として企業のワークフォースに統合されつつある。人事や調達部門は、AIと人間が協働するハイブリッドチームの構築や、新たな法的・倫理的課題への対応を迫... もっと見るられている。本稿では、AIを効果的に活用するための7つの戦略的アクションを提示し、企業が持続的成長と競争優位を実現するための実践的な指針を紹介する。 閉じる

AIエージェントはもはや新しい「人材」である

 AIが成熟するに従い、いわゆる「デジタル労働者」の供給が爆発的に増して、質の高いワークフォースの定義を変えている。これまでは人間の独壇場と考えられていた領域に、AIエージェントが加わり、かつては自動化できないと考えられていた多くのタスクを処理している。その結果、セールスフォースCEOのマーク・ベニオフによれば、デジタル労働者の対処可能な市場は近く数兆ドルに達する可能性があるという。

 こうなると、将来の展望を大きく修正する必要が出てくる。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)とデジタルデータデザイン研究所の新たな研究によると、AIエージェントは単なるアシスタント以上の存在に急速になりつつある。むしろデジタルチームメートという、新しい「人材」のカテゴリーを生み出しつつある。この新しいチームメートを最大限に活用するために、人事部や調達部門のリーダーは、デジタル労働者を統合したハイブリッドチームを構築するワークフォース戦略と、人材戦略を練り始める必要がある。そのために時間をかける組織は、効率だけでなく、よりスケーラブルでレジリエントな(再起力のある)コラボレーションを実現できるだろう。

 それはすでに現実になりつつある。たとえば、大手コンサルティング会社デロイトは、AIエージェントを「すべての」法人向けサービスに活用する過程にあると報告している。これには、顧客の業務を最適化するための多くのタスクをまとめ上げるマーケティングエージェントの役割が含まれるという。人材サービス世界大手アデコから独立したアールポテンシャル(r.Potential)などの一部人材紹介会社は、人間を紹介するだけでなく、人間とAIの両方が含まれる労働力を構築する企業として、ビジネスモデルを見直している。

 このような新しい環境で企業が成功するためには、AIをワークフォース戦略に統合することを積極的に考える必要がある。いますぐに行動する人事部門および調達部門のリーダーは、AIをどのように調達し、社内に組み込み、規制するかを制御できるが、行動を躊躇するリーダーは、新たな成長機会を逃すおそれがある。さらにひどければ、コンプライアンス、倫理、業績の面で予期せぬ問題に直面する可能性もある。これは破壊的なものに直面した時の、企業戦略全般における懸念事項だ。もはや、新しいテクノロジー(とりわけAI)がいつのまにか消え去ることを願って、無視しているわけにはいかない。世界が変わっていく中で、変化に適応する方法を深く理解できるように、リーダーが自社システムの構築に深く関与する必要がある。

 対応が遅い企業は、トップクラスの人材を確保するのにも苦労するだろう。なぜなら求職者の側でも、AIがサポートするスマートなワークフローによって、みずからの生産性と創造性を高めたいという期待が広がっているからだ。スピーディに動く競合他社は、AIを事業モデルに直接組み込み、人員を増やさなくともアウトプットを増やすことによって、スケール化を実現し、学習効果も高める。さらに、顧客としての大企業や政府が、強力かつきちんと監査可能なAIポリシーとガバナンスを要求するようになると、この領域で未熟な組織は不利になり、重要な入札案件や協力契約から外されるおそれがある。このように、無策はチャンスを逃すだけでなく、現実的なビジネスリスクをもたらすのだ。

7つの重要アクション

 筆者らは、データサイエンスとAI、そしてオープンタレントと人材紹介のエコシステムにおける経験に基づき、すぐに着手できる枠組みを構築した。それは、人間とAIエージェントから成るチームの概念に基づき、新しいタイプのワークフォース戦略を設計し、試し、スケールするための手引きとなるだろう。

タスクと結果をマッピングする

 この段階で目指すのは、ポジションやプロジェクトをタスクや結果により分解することだ。人間の候補者のコンピテンシーを定義するのと同じように、AIエージェントのほうがうまく、スピーディに、そして費用対効果が高く処理できるタスクを特定する必要がある。まずは、大量のデータ検証や反復的なコールセンター機能が、AIエージェント向けタスクの最有力候補となるだろう。一方、複雑な判断や説得、または深い専門知識を要するタスクは、依然として人間のインサイトか、AIを交えたハイブリッドアプローチで対処するかもしれない。

 ポイントは、もはや単に「労働力を買う」ことではなく、人間とAIの組み合わせがもたらす結果を購入することにある。したがって、調達に関するディスカッションは、タスクの細かな分解から始めて、労働力を正しく組み合わせることが重要になる。

AIの能力を評価する

 あなたの会社の特定のタスクやワークフローには、どのAIモデルとプラットフォームが最適かを見極めることが不可欠だ。そのためには、たとえばデータ検証やコールセンター機能だけでなく、マーケティングアナリストや、カスタマーサポート担当者、スケジューリングコーディネーターなどのポジションで共通の役割をカバーするAI機能の社内分類を構築しよう。

 マーケティングのコピーライティングは言語モデルがうまくできるかもしれないが、製造業の品質チェックには特殊なコンピュータビジョン(CV)エージェントのほうが向いているかもしれない。能力の「カタログ」を作成すると、画一的なアプローチを避けられるだろう。調達用語で言えば、これはAIソリューションの調達仕様書(RFP)に当たる。どのモデルがどの問題を解決するかを把握し、その領域の専門知識を証明できる人材紹介業者やテクノロジーベンダーと提携しよう。そうすれば、実際のビジネスニーズにそぐわないAIモデルに法外な金額を支払う必要はなくなる。

ハイブリッドチームを統合する

 AIエージェントと人間のチームをうまく連携させたいなら、役割に明確な境界線を引く必要がある。したがって、どのタスクをAIが担当し、どのタスクを人間が担当するか、そして問題が起きた時のエスカレーションを定義するハイブリッドワークフォース戦略を策定しよう。たとえば、AIカスタマーサービスが、特定の金額を超える請求額に関する複雑な苦情を受け取った場合、ルールによって自動的に人間のスペシャリストに回すようにする。役割やプロトコル、ワークフローにおいて担当が交代になる「引き継ぎ」ポイントを文書化しておけば、組織全体で信頼を築き、衝突や重複を防ぐことができる。

ビジネスモデル(とワークフォースモデル)を再設計する

 正社員、臨時雇用者、フリーランサー、AIを含む人材を調達して配置する、新しい方法を策定しよう。そのためには、クライアントが所有するデジタル労働者(AIソリューションのライセンスを取得するか、独自のAIソリューションを構築して、事実上「デジタル従業員」を社内に確保する)や、リースしたデジタル労働者(伝統的な派遣労働者のようにサードパーティからAIエージェントを「レンタル」する)、完全にアウトソーシングされたAI部門(AIと少数の人間の専門家を使って、受注処理やコールセンターなどのプロセス全体を処理するベンダーと提携する)などマルチレイヤーモデルを検討する必要がある。こうしたモデルを、財務やコンプライアンス、戦略的なニーズと一致させよう。

 たとえば、季節的に処理業務が急増する場合は、AIエージェントをリースするのが理想的かもしれないものの、反復的だが重要な機能については、AI部門に完全にアウトソーシングするほうが効率的かもしれない。リーダーの役割は、幅広いタイプの労働力を統合して管理することであり、そのためには、デジタル労働者のユニークな経済性(スケーラビリティ、ほぼ不変の動作可能時間、迅速な再トレーニングなど)を反映した、新しいKPI(重要業績評価指標)やコスト構成を設定する必要があると覚えておこう。

法的および倫理的な基本ルールを定める

 この段階で重要になるのは、AI担当業務に伴うバイアスや法的責任、データガバナンス、および広範な社会的影響に前もって対処することだ。そのためには法務、コンプライアンス、倫理の各チームと協力して、AIの使用に関する全社的な基準を策定する必要がある。このポリシーでは、AIが独自のデータから学習するか、どのように学習するか、バイアスをどのように発見して修正するか、個人情報や機密情報をどのように保護するかを定義すべきだ。

 グローバルな企業の場合は、国によって規制が異なる事態を覚悟しよう。これは重要なことだ。倫理的な失敗(差別的な採用アルゴリズムやデータの誤用など)は、会社の評判を傷つけたり、規制に引っかかるおそれがある。多くの国がAI法制化を急いでいる。先回りして枠組みを構築して、早い段階からAI文化を育てる企業は、法律が制定されてからプロセスづくりを余儀なくされる企業よりも、はるかにうまく適応し、対処できる。

技術が進化する中で価値をつかみ続ける

 これを適切に実践するためには、常にパフォーマンスをモニタリングし、結果を測定し、AIと人間の組み合わせを改善する必要がある。1回限りのAI採用以上のことを考えよう。フィードバックに基づきパフォーマンスを測定し、AI訓練データを更新し、調達戦略を改訂するループを確立しよう。たとえば、AIスケジューリングツールで人間の介入を要するケースが頻繁に生じる場合、さらに高度なAI訓練や、より強化された人間による強力な監視が必要なのかもしれない。「一度ルールを定めたら、後は放置」という伝統的な人事アプローチは当てはまらない。AIの価値は、インタラクションから学習することで高まる。ベンダーの知的財産(IP)や自社のデータ主権を尊重しつつ、改良の余地がある契約をまとめよう。

人間中心を維持する

 AIは、人間がありふれたタスクをこなす必要性を減らして、価値の高い人間主導のタスクの重要性を高める。従業員が後者のタスクを引き続き担えるようにすると、やる気を維持するだけでなく、他社が簡単に真似できない差別化価値をもたらすことができる。したがって、従業員がAIと働くことに適応するための研修だけでなく、AIを活用して自分のインパクトを高められる研修やスキル開発に投資しよう。人間関係の構築や倫理的な意思決定、そして創造性など、人間がまだ明確な優位性を持つ分野に注力するのだ。

ラディカルな変革に備える

 AI労働者を直接採用するのであれ、人材紹介会社やオープンタレント業者を通じて調達するのであれ、以下の重要な問いを自分に投げかけて、自社戦略の手引きにしよう。

・AIがあなたの会社の独自データで訓練されている場合、そこから生まれる能力を所有するのは、あなたなのか、それともAIモデルまたはエージェントの所有者なのか。

・AIエージェントの雇用契約など、新たな法的枠組みが必要か。AIがミスをした場合、誰が責任を負うのか。

・監視や公平性に関して、未解決の問題はあるか。

・特定の仕事に人間とAIのどちらを選ぶかについて、現時点でどのようなガイドラインがあるか。倫理やブランドの評判、または雇用保護が問題になっている時は、どうか。

・究極的には、明確な答えを出すのが難しい検討事項がある。すなわち、AIエージェントがチームに組み込まれ、ひょっとすると法的または倫理的な地位さえも獲得した時、「仕事」の定義はどのように進化するのか。

 これらの質問すべてに、最初から答えを用意しておく必要はない。道々手引きとして活用し、答えを出すとよい。これらは理論的な懸念事項ではなく、戦略的な検討事項だ。その解決のために真っ先に動く組織は、仕事の未来の定義と、誰がその価値を支配するかを決めるだろう。

 今後の方向性を考える時は、人間中心主義という指針を心に留めておこう。AIは人間よりも多くのタスクを、人間よりも迅速に処理できるが、あなたの会社は依然として、人間だけが提供できるインサイトや共感、人間関係に依存している。AIの効率性を解き放つことと、人間の創造性を保護することという2つのフォーカスを維持すれば、持続可能な成長を推進する可能性を最大限に高めることができる。


"Agentic AI Is Already Changing the Workforce," HBR.org, May 22, 2025.