CEOが取締役会と良好な関係を築く方法
Illustration by Anthony Zinonos
サマリー:CEOと取締役会の関係は、自律性を求めるCEOと透明性と影響力を求める取締役会の間に生じる緊張によって成り立っている。この関係を良好に保つには、交流の頻度よりもそのタイミングと構造が重要だ。具体的には、事前... もっと見る説明、会議、会議後のフォローアップという3つの局面での戦略的な対応が、信頼と自律性の好循環を生む。本稿では、CEOが取締役会との関係を構築するうえで重要となる3つの機会と、その具体的な対応策を解説する。 閉じる

透明性よりも大切なこと

 CEOと取締役会の関係ほど重要で、デリケートなものはない。この関係の中心にある緊張、すなわち取締役会が求める透明性と影響力、CEOが望む自律性とのバランスを取ることは極めて重要だ。

 従来の考えでは、オープンであることやコミュニケーションが重視されるが、筆者らの研究で、インタラクション(交流)の量よりも、そのタイミングと構造のほうが重要であることが明らかになった。CEOが取締役会とどれだけ接するかではなく、いつ、どのように接するかが、両者の関係を左右するのだ。

 筆者らは、初めて就任したCEOと、その会社の取締役会メンバー、上級幹部へのインタビュー90件、複数回にわたる彼らへのサーベイ、そして数十件の取締役会の直接観察に基づき、就任後の最初の3年間という重要な時期にCEOと取締役会の関係がどのように発展したかを分析した。その結果、関係が機能不全に陥る原因は、コミュニケーションや透明性の欠如ではなく、インタラクションのタイミングの悪さ、境界線の不明確さ、微妙だが決定的なパワーバランスの変化であることがわかった。

 CEOが成功するためには、取締役会とのインタラクションを戦略的に構築する能力を習得する必要がある。本稿では、コミュニケーションにおける3つの重要な機会と、CEOがそれぞれの機会にどう対応すべきかを解説する。

事前説明:情報を過剰に示さず認識を共有する

 多くのCEOは、取締役会前に個々の取締役に対して詳細な事前説明を直接行うことで、摩擦を減らそうとする。その意図(透明性の確保、認識の共有、不意打ちを避けること)はよいのだが、結果として裏目に出ることが少なくない。

 たとえば、あるフィンテック企業のCEOのエマは、取締役会前に個々の取締役に対面で説明を行っていた。取締役は透明性を評価したものの、こうした一対一の事前説明のためにチームに急な要請をすることになり、多忙なチームが対応できないことが頻繁にあった。これは、取締役会の準備を妨げるだけでなく、エマが個々の取締役と議題や内容を事前に確認していたような印象を与え、他の取締役も同様の配慮と情報提供を求めるようになった。このプロセスは彼女の権限を低下させ、摩擦を増幅させる結果となった。

 筆者らの研究結果によれば、CEOは主要な問題を記した簡潔な事前資料を送付するだけに留め、議論は取締役会で行うべきである。たとえば、ソフトウェア企業のCEOのマークは、主要な問題を要約し、戦略的選択肢を概説した1枚の文書を送付している。取締役はこの明快さを評価し、全員が同じ認識を持つことができる一方で、マークはチームに取締役会の議論の準備のために多くの時間を与えることができている。取締役がより詳細な情報を求めたり、新たな議題を提案したりする可能性はあるが、それは稀だ。

取締役会:場を共有し、信頼を築く

 取締役会は、しばしばCEOが手腕を発揮する場と見なされがちだ。多くの新任CEOは、最もよく話し、すべてのスライドを提示し、チームの意見は最小限に抑えるという、明らかな指揮統制型のスタイルを採用する。しかし、能力を示そうとすることで、かえって防御的な印象を与えることが少なくない。