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ストレスに起因するビジネスリスクを評価する
職場のストレスは長年、経営陣の監視を必要とする組織的かつビジネス上で極めて重大なリスクとしてではなく、主に人事部が管理すべき個人の問題として、ウェルネスプログラムやストレスマネジメントのワークショップを通じて扱われてきた。こうした時代遅れの考え方が今日も残っているのは、認識不足が原因ではなく、職場のストレス対策がビジネス戦略にとって不可欠なものではなく、周辺的なものとして扱われることが多いからだ。
デロイトの調査では、経営幹部レベルのエグゼクティブの94%が、健康に精通したリーダーであることの重要性に同意している。しかし、従業員やステークホルダーの健康を守るために十分な対策を取っていないと68%が認めている。認識と実行の間に大きなギャップがあるということだ。一方、アフラックの2024年のデータによると、従業員の54%が雇用主が自分のメンタルヘルスに配慮していると感じているものの(2023年の48%から上昇)、38%が職場で高いストレスを感じていると回答しており(2023年の33%から上昇)、現在の企業の投資がストレスに特化したニーズに対処できていないことを示唆している。
なぜこうした投資がうまくいっていないのか。投資を行っているにもかかわらずストレスレベルが上昇している根本的な原因の一つは、企業が問題を測定し、定量化する能力に限界があることだと筆者らは考えている。企業は財務リスク、オペレーショナルリスク、レピュテーションリスクを厳格に測定するのと同様に、ストレスもビジネスリスクとして測定し、管理する必要がある。
本稿では、ストレスに起因するビジネスリスクの評価と追跡を支援する新たなフレームワーク「ストレス・リスク・サーモメーター」を紹介し、体系的な測定、部門横断的な責任、的を絞った介入を通じてレジリエンスを構築するための実行可能な戦略を提示する。
ストレスが組織にもたらすコスト
米国と英国のストレス負荷の高い産業におけるフルタイムのプロフェッショナル1005人を対象とした筆者らの最近の研究で、高いレベルのストレスは、企業の従業員1000人当たり年間530万ドルの追加コストにつながることが明らかになった。また、雇用主にとってのストレスのコストは、コスト管理、リスク軽減、パフォーマンス維持の3つの分野で現れることがわかった。
コスト管理
筆者らのデータによると、ストレスの高い従業員は、ストレスの低い従業員よりも健康保険の請求件数が2.5倍多く、保険に加入している企業にとって直接的な経済的負担となっている。マーサーの「2024年ピープルリスクレポート」では、健康保険コストの上昇が世界的なビジネスリスクの第1位であると指摘されており、コストリスクへの対応が急務となっている。2020~2024年に、米国では従業員1人当たりの保険料が28%も増え、年平均6.5%上昇している。
リスク軽減
さらに、筆者らの調査では、企業コンプライアンスを危うくするようなミスや締め切りの遅れ、手抜きをしたと従業員の12%が認めている。そして、ストレスの高い従業員は、その可能性が11倍高かった。コンプライアンス違反に対する金銭的な罰則は大きな打撃となる恐れがあり、さらに回復が困難なのは、ストレスに起因する失敗がもたらすステークホルダーの信頼の喪失と風評被害であると筆者らは考える。