女性からのハラスメント告発は男性より軽視されやすい
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サマリー:多くの組織は、ハラスメント行為があれば通報するよう従業員に求めているが、筆者らの研究によると、女性からの通報は男性に比べて真剣に受け止められづらいことが明らかになった。特に証拠がない場合、その傾向は顕... もっと見る著だという。そこで本稿では、データ分析に基づき、通報制度の改善策とリーダーが取るべき対応を提言する。 閉じる

女性からの「通報」は真剣に受け止められづらい

 組織は従業員に対して、ハラスメント行為があれば通報するよう求めるものだ。それが問題行動に対処するカギになると信じているからである。しかし、筆者らの研究によると、通報が状況の改善につながるかどうかは、通報の内容だけでなく、「誰が」通報したかにも左右されることがわかった。

 近々『オーガニゼーション・サイエンス』誌に掲載予定の論文で、筆者らは職場における通報事例を多数分析した。米連邦政府職員による保存データと5件の実験結果を組み合わせ、通報者の性別が是正措置にどう影響するかを検証したのである。

 その結果、通報の内容が同一であっても、女性からの通報は男性からの通報に比べて、真剣に受け止められる確率が低いことが判明した。なかでも、告発内容を裏づける証拠がない事例では特に、その傾向が顕著だった。しかし、筆者らのデータによれば、職場におけるハラスメント事案では証拠がないケースは珍しくない。

 問題行動への対応をめぐるジェンダーバイアスに対処するために、リーダーはまず、こうした偏りが生じる理由を理解する必要がある。本稿では、企業が従業員に信頼される公正な制度を構築できるよう、データ分析に基づく知見と提言を紹介しよう。

女性からの通報が軽視される理由

 明確な証拠が存在しないケースでは、意思決定者は「告発内容が信頼できるか否か」に基づいて判断を下す傾向にある。筆者らの研究によれば、女性からの通報は男性からの通報に比べて、「信頼性がある」と受け止められる確率が際立って低い。これは、「女性は男性よりも感情的になりやすく、客観的でない」といった古くからのステレオタイプを反映している。

 筆者らはある研究で、連邦政府職員2000人以上を対象とした大規模で体系的な調査「2016年版メリット・プリンシプルズ・サーベイ」の公開データを分析した。その結果、女性による通報は是正措置につながる可能性が低いことが明らかになった。この傾向は、職員の職位やハラスメントのタイプなどの要因を考慮に入れた後でも変わらなかった。

 次に、筆者らは制御された環境下でも同じ結果が再現されるかを調べるオンライン実験を行った。この実験では、組織に雇用されている成人を集め、さまざまなハラスメント告発について評価してもらった。彼らに聞かせる素材を作成する際には、AIを用いて、通報者の性別のみが異なる同一内容の音声を録音した。

 結果は、先行研究と同様だった。訴えられているハラスメントの内容がまったく同一であっても、女性による通報は男性による通報に比べて、上層部に情報が上げられる確率が低かったのである。