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価格設定の罠
組織はしばしば価格設定の罠に陥る。新製品がもっと採用されるように、試用を促すために、あるいは善意を示すために、製品やサービスを無料で提供するのだ。しかし、消費者心理学と行動経済学の研究によると、「無料」には大きなコストが隠れている。ひとたび顧客が「無料」を参照価格と見なすようになると、あとで有料にするのが難しくなるのだ(不可能になることもある)。もっと悪いことに、無償提供は過小評価や過剰使用、乱用をもたらすことが多い。また、過大な期待を生み出し、長期的な持続可能性を脅かす。幸いなことに、研究では、知覚価値を傷つけることなく無償提供の恩恵を享受するための戦略も明らかにされている。
有料のほうが無料よりもよい
消費者は価格と価値を同一視するものだ。何かを有償にすると(たとえ形だけでも)、それを注意深く扱い、責任を持って使用し、その価値を認めるよう促すことができる。
エジプトにある2つの公園は、そのよい例だ。2005年にカイロにオープンしたアズハル公園は、当初、入場料を取ることで大きな批判を浴びた。なぜ市民が公共の緑地を利用するのにお金を払わなければならないのか──。だが、入場料は控えめな金額で、市民的な責任感を生み出すのに役立った。たいていの利用者は、ゴミを適切に処分し、敷地をていねいに扱った。入場料は、公園を維持管理するための安定収入にもなり、政府の補助金や寄付だけに頼らずに済んだ。それから20年が経ったいまも、アズハル公園は都会のオアシスとしてにぎわっている。それとは対照的なのが、わずか数キロ離れたところにあるフスタット公園だ。アズハル公園と同じように野心的な公園計画に基づきオープンしたが、手入れもされず荒廃しきっている。あまりに荒れているため、政府は新たに1億2000万ドルを投じて整備することになった。
もう一つの例として、無料のレジ袋やおまけについて考えてみよう。それらが再利用されたり、大切にされたりしないのは、無料だからに他ならない。わずかな金額を課すだけでも、利用者の行動は大きく変えることができる。
価格を決める──たとえ徴収しなくても
「無料」の運用を誤った最も悪名高い例の一つが、ネットフリックスだ。同社は2011年、DVDレンタルと動画配信を別々のプランにしようとした。料金はどちらも7.99ドルだ。ところがユーザーは長年、動画配信はDVDレンタル(月9.99ドル)に無料でついてくるサービスと認識していたため、別途料金がかかることになるという知らせを受けて激怒した。この時ネットフリックスはユーザーを数十万人失い、株価は1日で35%下落した。
その教訓は、たとえ料金を徴収していない時でも、提供している商品やサービスの価額を明確に伝えるべきだ、ということだ。その方法はいくつかある。
ストライクスルー価格設定
本来の価格を明記すると、たとえその支払いが免除されている時も、そこに取引が存在することを顧客に明確にできる。たとえばアドビは、多様な機能をまとめた「クリエーティブクラウド」(CC)を学生に提供するに当たり、「通常月額59.00ドルのところ、いまなら月額19.99ドル」と表記するプロモーションを展開して、全額の支払いは求めないが、本来の値段は高いことを伝えている。
バンドル
アマゾン・プライムは、単一のサブスクリプション料金で動画配信からクラウドストレージ、翌日配達など多数のサービスを提供している。ユーザーは、そのすべてのサービスを必要ではなくても、それぞれに価値があることを知っているため、サブスクリプション料金を正当と見なし、アマゾンを利用し続けている。