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不確実な状況でサプライチェーンにどうアプローチするか
貿易戦争によって大混乱が生じ、不確実性が高まっている現状では、グローバルなサプライチェーンに関与する企業が中期的な戦略を策定するのは極めて困難で、不可能にも近い。そこで、企業の短期的な対応を把握すべく、筆者らは米国内外の製造企業および小売り企業10社以上のサプライチェーン担当者にインタビューを実施した。
彼らとの対話を通じて、従業員の士気をはじめ、さまざまな悪影響を軽減するために企業が講じている施策への理解を深めることができた。本稿では、彼らが共有してくれた6つの対応策を紹介しよう。
1. 先を見通せない現状についてステークホルダーに正直に伝える
貿易戦争によって日々、状況が変化する中、サプライチェーンにも企業内部にも不確実な要素が多数生じている。こうした状況について、社内および関係の深いサプライチェーンパートナーに対して、リーダーシップが率直かつ透明性の高いコミュニケーションを行うことで、行動を妨げ、注意力を削ぐ要因となる不安やいら立ちを取り除くことができる。
ある企業は従業員とのタウンホールミーティングを開催し、状況について率直に説明しているという。また別の企業のマネジャーも、主要なサプライヤーと類似の対話を行っていると話してくれた。
2. 組織的に対応する
新型コロナのパンデミック時に設置された対策本部を再稼働させ、財務やマーケティング、エンジニアリング、サプライチェーンなどの機能別の専門家を集結させよう。コストおよび調達についての分解分析を行い、関税が原材料や部品、製品に及ぼす財務面や地理面の影響を、調達地別に詳細に把握する必要がある。
製品ごと、市場ごとに極めて細かい分析を行うことで、サプライチェーン全体の再設計という大規模な決断ではなく、それぞれの問題に応じた適切な対応を取ることが可能になる。たとえば、ある食品メーカーは関税の引き上げを予測し、一部の原材料について、特に関税の影響を受けやすいと判断した主要市場への発注量を増やしておいた。
3. 製品の素材や配合について別の選択肢を検討する
各製品で使用される材料を、関税調整後のコストの視点から評価することで、実現可能な代替案を探し、適切な調整を加えることができる。ある中規模メーカーのマネジャーは、製品のアルミニウム含有量を増やして鉄鋼の含有量を減らしたことにより、この製品を、関税率がはるかに低いカテゴリーに再分類できたと語ってくれた(鉄鋼とアルミニウムはどちらも25%の輸入関税がかかるが、米国の統一関税率表では特定の品目や製品仕様は免除対象とされている。ドナルド・トランプ大統領は5月30日、鉄鋼とアルミニウムの関税を50%に倍増させ、6月4日に発効させると発表した)。
4. 別の業務拠点を検討する
サプライヤーと協力して業務拠点を米国内に移し、新たな物流体制を構築することで高関税を回避しようとするメーカーも複数あった。こうした企業は、未完成段階の製品を輸入したうえで、最終的な組み立てと包装を国内の拠点で完了させていた。また、米国・メキシコ国境の両側に拠点を持ち、関税環境の変動に対応できる柔軟性と機敏性を確保している企業もあった。
5. バンドル化の選択肢を検討する
複数の商品をまとめて包装・販売するバンドル製品の場合、関税分類はさらに複雑になる。どの関税分類に属するかはバンドル製品の「本質的な特性」によって決められるが、その判断は主観的になりやすい。