新任リーダーが失敗しないために守るべき5つの心得
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サマリー:新たにリーダーに就任した直後の振る舞いは、その後の在任期間や組織文化に大きな影響を与える。性急な人事や改革は、信頼の喪失や組織の不安定化を招きかねない。重要なのは、既存人材への敬意を払い、データに基づ... もっと見るいた評価を行いながら、信頼関係を築くことである。本稿では、引き継いだチームを率いる際に持つべき戦略と心構えについて解説する。 閉じる

リーダーに就任した直後の振る舞いがその後の在任期間を決定づける

 新しいリーダーシップの役割に就く時、あなたは極めて重要な局面を迎える。多くの場合、その時の対応がその後の在任期間の展開を決定づける。あなたは引き継ぐチームにどのようにアプローチするだろうか。

 筆者が最近コーチングを行ったクライアント(仮にマヤと呼ぶ)は、新しい会社に入って2カ月も経たないうちにみずからのリーダーシップチームを招き入れ、高い社会的信頼と人望を持つ古参のリーダーたちを第一線から外した。彼女の目標は「人材のレベルを引き上げる」ことだったが、この行動が永続的な悪影響を生んだ。筆者が彼女の支援を始めたのはそれから半年後のことで、その時点で彼女が行ったエンゲージメントサーベイは、混乱が収まっていないことを示していた。彼女はみずから招いた不安と不信を払拭できず、従業員たちが次に自分たちの仕事がどうなるのかと危惧する中で、組織文化は不安定になっていた。

 大胆な動きは勢いを生むように見えるかもしれないが、同時に抵抗を生み、信頼を失わせ、文化を不安定にさせることもある。最も有能なリーダーは、就任直後に大きな変革を起こしても持続可能な結果をもたらすことはめったにないことを認識している。彼らは、新鮮な視点と既存の人材に対する深い敬意のバランスが取れた、思慮深く戦略的なアプローチを取る。

 この重要な転換点を乗り越え、適切に方向性を定め、既存の強みを活用し、目的のある変革を主導するための戦略を以下に解説する。

1. 結論ではなく好奇心を持って主導する

 新しい役割で迅速な成果を出すというプレッシャーから、経験豊富なリーダーでさえ、引き継いだチームについて性急な判断を下してしまうことがある。しかし、安易な評価や人材の交代に頼ることは、データではなく、無意識のバイアスに起因していることが多い。「親近感バイアス」により、経歴、興味、経験が似ている人を好むかもしれない。「利用可能性ヒューリスティック」によって、深い分析ではなく、最も強く主張されている、あるいは最も目立つデータポイントに基づいて性急な判断をしてしまうこともある。そして、「ハロー効果」(あるいは「ホーン効果」)により、ポジティブまたはネガティブな第一印象に基づいて、おおまかな判断を下してしまうかもしれない。

 チームメンバーを交代させるのではなく、まずは好奇心を持って臨むべきだ。質問をし、状況を観察し、話すよりも聞くことに徹する。彼らは安全だと感じれば、真の能力を発揮してあなたを驚かせるかもしれない。人材の不足だけでなく、隠れた強みや未開発の可能性を見つけるために時間を割くべきだ。

2. 客観的な人材評価をする

 バイアスや性急な判断を避けるには、時間をかけて公平な人材評価を実施すべきだ。直勘だけに頼るのではなく、この評価を構造化されたプロセスとして捉える。データを収集し、リスニングツアーを実施して、チームの全体像を把握しなければならない。

・過去1~2年間のチームメンバーの業績評価を確認し、前任者やステークホルダーが彼らの業績をどのように認識していたかを理解する。

・過去1年間の会社のエンゲージメントサーベイまたはパルスサーベイのデータを掘り下げ、リーダーに対するチームの感情を理解し、盲点を見つけ、業績評価だけでは現れないパターンを明らかにする。

・部署内および部門横断的にステークホルダーインタビューを実施し、過去の業績、現在の評価、および未開発の可能性について詳細を収集する。

・各リーダーに正式な360度評価への参加を依頼するか、最新の評価を共有してもらい、彼らのリーダーシップ行動や社内文化における認識について、より詳細な洞察を得ることを検討する。

 このアプローチは、見落としを防ぎ、実行するあらゆる変更を証拠に基づいたものにし、チームとの信頼関係を構築し、公平性を示し、業績と責任の文化を強化する。公平性は全員が残留することを保証するものではないが、誰もが公平な評価と査定を受けることを意味する。

3. 変革を計画していても、信頼に投資する

 過去に一緒に仕事をしたことのあるリーダーを招き入れることは、あなたにとって心理的安全性を生む。彼らはすでにあなたのリーダーシップスタイルを理解し、あなたの言葉を共有し、あなたのビジョンを支持する傾向があるからだ。しかし、不必要な感情的または運用上の混乱を引き起こすことなく、変革を主導することが目標なら、引き継いだ既存のチームとの信頼関係を構築することに投資することも同様に重要だ。

 透明性を持って主導することから始める。期待すること、チームの能力を評価する手順、意思決定を導く価値観を明確に伝えること。変える必要があるものを特定し始めたら、開かれた対話を行う。フィードバックを共有し、成長のための情報を提供し、チームメンバーにあなたのリーダーシップの下で能力を発揮する有意義な機会を与える。このような業績に基づくプロセスを設けることで、あなたが信頼を獲得するだけでなく、チームは明確さ、尊厳、そして貢献する公平な機会を得る。

 初期の評価で、チームメンバーの一部が長期的な展望に含まれないと示された場合、これは直感的に理解しにくいかもしれない。しかし、たとえ短期間でも尊厳、尊敬、透明性を持って扱われれば、人々はあなたのリーダーシップとあなたが形成しようとしている文化の強力な支持者となる。彼らの支援は、不確実な移行期において士気を安定させ、継続性を維持するために不可欠なものとなる。

 そして、前任のリーダーが持つ信頼という資産を過小評価してはならない。彼らの人間関係、影響力、そして組織的知識は、過去と未来をつなぐ架け橋となりうる。たとえ最終的に組織再編を選択したり、たもとを分かつことになったりしても、その信頼を認識し尊重することは、より円滑な移行を可能にし、あなたの長期的なリーダーシップブランドを強化する尊敬を示す。

4. 保存と変革を比較検討する

 部門を適正化し、成功に導くために何が必要かを正確に知っていたとしても、長く在職するリーダーや経験豊富な貢献者を突然交代させることは、以下の分野で重大な悪影響をもたらすことがある。

心理的安全性:エイミー・エドモンドソンが著書『恐れのない組織』で指摘しているように、突然の変更はチームの信頼を損ない、彼らを沈黙させることがある。それも、オープンなフィードバックとイノベーションが最も必要な時にだ。

雇用主ブランドの損害:尊敬されている社内リーダーが明確な理由なく解雇されると、社内外に情報が伝わる。特に、解雇された従業員が社外の顧客やステークホルダーと深い関係を持っている場合はそれが顕著だ。

組織的知識の喪失:長年勤務している従業員は、引き継ぎ資料やスプレッドシートの情報では捉えきれない、機微に富み、背景情報に裏打ちされた深い洞察を持っていることが多い。彼らの離職は、オンボーディングの遅れ、ミスの繰り返し、意思決定の妨げにつながる。

 たしかに、ある程度の変更はしばしば必要だ。しかし、緊急性を無謀さと混同してはならない。賢明な変更は、真の能力不足に対処しながら、既存の強みを尊重するものである。それはバランスであり、保存と変革という二者択一ではない。

5. 新しい視点と継続性のバランスを取る

 新しいリーダーは、新鮮な視点をもたらす。あなたは、前任者が見落としていた人材の不足、非効率性、あるいは文化的なパターンを発見するかもしれない。その新鮮な視点は強みだが、既存のリーダーを、過去の職場の忠実な人々と交代させるという反射的な行動は、戦略的明瞭さよりも不安を示す可能性がある。長年勤めてきた従業員に対し、新しい視点を取り入れ、解決策の一部となる機会を与えることなく性急に解雇すれば、文化の継続性、高い信頼関係、そして組織の管理を担う人々を失うかもしれない。

 持続可能な変化に必要なのは、人材を一掃することではなく、鋭い眼識だ。進化する意志とスキルを持っているのは誰か。進歩を妨げているのは誰か。陰で文化を担っているのは誰か。異なるサポートや新しい挑戦を与えれば成功するのは誰なのか。

 高い信頼とパフォーマンスを誇るチームは、すべてをゼロから始める必要はない。時間をかけて彼らを理解すれば、引き継いだ部分から構築することができる。

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 偉大なリーダーの証は、どれだけ迅速に行動するかではなく、どれだけ賢明に決断するかだ。チームを引き継ぐということは、人員を管理するだけでなく、文化を形成、あるいは再形成するということだ。初期の段階でのあなたの振る舞いが、あなたのリーダーシップブランドを方向づける。あなたは共感と洞察力を持って主導するのか、それともエゴと衝動で主導するのだろうか。

 最高のリーダーは、緊急性と忍耐力を兼ね備えている。断固たる行動を取るが、それは適切な情報を収集した後だ。彼らは新鮮なビジョンをもたらすと同時に、前任者の仕事も尊重する。そして、パフォーマンス、信頼、文化が相互に絡み合い、それぞれが他方を形成していることを認識している。ビジョンと、あなたがチームメンバーに抱かせたいと望む思慮深さを持って、主導すべきだ。


"5 Steps for Leading a Team You've Inherited," HBR.org, June 17, 2025.