優秀なプロフェッショナルが「過剰労働」から抜け出せない本当の理由
HBR Staff Using AI
サマリー:プロフェッショナルは、組織におけるペースの速さに心身が同調する「エントレインメント」により、過剰労働に陥りやすい。このサイクルは短期的には利益を生むが、長期的には燃え尽きや生産性低下を招き、組織を蝕み... もっと見るかねない。本稿では、この有害なサイクルを生む要因を分析し、それを打破して従業員の健康と企業の持続的成長を両立させるための具体的な方策を論じる。 閉じる

プロフェッショナルが過剰労働に陥るメカニズム

 好成績を挙げているプロフェッショナルたちは往々にして、どのようにして自身の健康や人間関係や個人レベルのウェルビーイングに悪影響が及んでも猛烈なペースで働き続けるのか。また、企業が勤務時間外のメールのやり取りを停止したり、メンタルヘルス関連の取り組みを開始したり、ウェルネス関連のセミナーを開催したりして、極端な長時間労働に歯止めをかけようとしても、それらはなぜ失敗することが多いのか。

 筆者らの研究により、プロフェッショナルたちを過剰労働に駆り立てるメカニズムが見えてきた。そのメカニズム──強力なメカニズムだが、見落とされていることが多い──とは、「エントレインメント」(生体リズムの同調)のサイクルである。

 筆者らがグローバルな法律事務所と会計事務所で働く150人以上を対象に行ったインタビュー調査から、プロフェッショナルはしばしば、感情的にも肉体的にも組織の絶え間ないテンポに同調する。すると労働ペースがより過酷なものになり、結果として強力なフィードバックループが形成され、働き手は過剰労働の文化により深くはまり込んでいく。

 テンポの速い職場文化は、短期的に見れば効率的で利益を生みやすいように見えるかもしれないが、長い目で見ると、組織に及ぶ弊害は大きい。具体的には、燃え尽きによる退職者(特に好成績の従業員)が増加したり、職場で創造性を発揮するゆとりと時間が乏しくなったり、生産性が低下してエラーの発生率が上昇したり、脆弱な職場文化──常に行動し続けることを通じて得られるアドレナリンに全面的に依存する文化──が形づくられたり、といった問題が生じるのだ。

 組織が活動のペースを落とさざるをえなくなったり、景気の悪化やリーダーの交代により危機に陥ったりすると、速いペースで活動することに依存し切っていた従業員ロイヤルティはたちまち消し飛んでしまう場合がある。そうなると、コロナ禍のように、チームメンバーのエンゲージメントが落ち込んだり、いわゆる「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)が横行したり、突然の退職が増えたりしかねない。

 では、速いテンポが大きな弊害を生む事態を防ぎ、未来に生き残るために、組織は何ができるのか。本稿では、筆者らの研究をもとに、上述のエントレインメントサイクルを生む要因、そのサイクルを打破する方法、そして、従業員の健康とウェルビーイングと定着率を大切にしつつ、収益も維持するために組織が取るべき行動を提案したい。

エントレインメントの代償

 トップクラスのプロフェッショナルサービス企業ではたいてい、長時間労働は単なる習慣に留まらず、一つの生き方のスタイルになっている。働き手たちは、日常的に夜間や週末、休日にも仕事をしている。そうしろと指示されたわけでもなく、その人たちがことのほか、競争心の強い「タイプA」の性格分類の人間だからというわけでもない。そのようなペースが普通、もっと言えば不可欠だと感じるようになっているのだ。