あなたが会社から独立するタイミングを見極める方法
HBR Staff Using AI
サマリー:米国でフルタイムの独立労働者が急増し、時間や収入をみずから管理する働き方が注目されている。しかし、その一歩を踏み出すタイミングの見極めは非常に難しく、多くの人が判断を誤っているのが実情だ。本稿では、成... もっと見る功した起業家たちの事例をもとに、キャッシュフロー、自分の強み、必要な資本、感情のコントロール、仕事への情熱という5つの重要な問いから、あなたが独立すべきタイミングが来たかどうかを見極める方法を紹介する。 閉じる

多くの人が独立するタイミングを間違えている

 米国のフルタイムの独立系労働者は、MBOパートナーズの調査によると、2020年の1360万人から2024年には2770万人に増加した。彼らの84%は独立して働くほうが幸せで、健康状態や経済的な安定性も向上したと回答している。自分で道を切り拓く働き方は、かつてはリスクの高い職業選択と見なされていたが、現在では時間や収入を自分でコントロールし、一緒に働きたい人を選びたいという理由から、企業で働くシニアリーダー層でさえも、これを目指すようになった。

 では、なぜさらに多くの人が会社を辞めて独立しないのだろうか。その理由の一つは、その一歩を踏み出すタイミングを見極めることが非常に難しく、多くの人がその判断を間違えているからだ。

 筆者の一人であるカトリーナは、23歳の時に当時の仕事を辞め、いわゆるマグニフィセントセブンに名を連ねる大手テック企業からの数十万ドルのオファーを蹴って、ソロプレナー(一人起業家)のライターとして世界を旅して回ろうと決めた──少なくとも当初の計画はそうだった。しかし3カ月後、彼女はスターバックスで働いていた。

 そこから新しい人脈と機会を築き、自分のネットワークを広げていった。そして、クラウド型CRM(顧客関係管理)プラットフォームのハブスポットなどの企業と業務委託契約を結んで働き、起業家を支援するデジタルプレスでの仕事を経て、M1ファイナンスなど複数のスタートアップを経験し、メディア兼教育プラットフォームである「カテゴリー・パイレーツ」に加わった。

 同じく筆者の一人であるエディは43歳の時、コンサルティングファームのシニアパートナーを辞めて独立した。経済的にも職業的にも独立できる十分な基盤を築いてから、かなり時間が経っていた。いま振り返れば、さらに早く決断できたはずだ。先延ばしにしたことで、おそらく数百万ドル分の収入と、家族との貴重な時間を失った。

 3人目の筆者のクリストファーは、38歳で独立した。2006年にヒューレット・パッカードに45億ドルで買収されたマーキュリー・インタラクティブで、CMO(最高マーケティング責任者)を務めていた時のことだ。早すぎる転身に思えるかもしれないが、18歳で最初の会社を起業して、上場していたテック企業3社でCMOを務め、アメリカン航空でのフライトが400万マイルを超えていたクリストファーにとって、新しい挑戦を行う機は熟していた。

 ちょうどサイドビジネスが軌道に乗り始めているという人は、悩んでいることだろう。では、本業を辞めるタイミングをどのように見極めればよいのか。

 筆者ら自身もこの命題についてリサーチを重ね、慎重に検討してから、それぞれ決断を下した。筆者らが運営しているカテゴリー・パイレーツは、この重要な決断に焦点を当てた講習を提供し、ニュースレターを発行して、関連の書籍も執筆している。

 すべての人に当てはまる正解は存在しないが、独立して成功したエグゼクティブやリーダーと仕事をしてきた筆者らは、その時を迎えたかどうかを判断するために重要な5つの質問を見つけることができた。

サイドビジネスからのキャッシュフローが本業の収入を持続的に上回っているか

 すでに一定期間、サイドビジネスからの収入が本業を上回り続けていることが理想だが、サイドビジネスの成長軌道、価格決定力、スケーラビリティ(拡張性)、クチコミは、独立をより早く決断するための判断材料になる。

 力強い成長軌道は、サイドビジネスに専念した場合にどのくらいの成果が見込めるかという指標になりうる。また、サイドビジネスには価格決定力が必要で、これは需要の率直な目安になる。そして、ザピアーのような新しい自動化ツールを活用すれば、時間や労力を追加せずにスケールを拡張しやすくなる。何を売るか(提供するもの)以上に、どのように売るか(ビジネスモデル)が重要なのだ。最後に、自然発生的なクチコミが拡散しやすいことも不可欠である。

 ディッキー・ブッシュは20代半ばにして、資産運用会社ブラックロックで年収20万ドルを得ていた。そして、ニコラス・コールとデジタルライティングのビジネスを立ち上げてから14カ月後にブラックロックを辞めた。その時点でサイドビジネスの収入は本業の給与の4倍に達しており、価格決定力、スケーラビリティ、デジタルのクチコミは確実な成長軌道を描いていた。現在、彼らのビジネスの売上げは年間600万ドルを超える。

あなたのスーパーパワーは10倍の成果を生むか

「10倍の成果」は、経営コンサルティングの業界でよく使われる基準だ。クライアントがコンサルティングから直接得る売上げ、利益、または企業評価額が、その費用の少なくとも10倍以上になるという意味である。

 あなたのスーパーパワーは何か。これを定義することは極めて重要であり、あなたが思っているほど簡単ではない。肩書きや経歴、職歴は関係ない。スーパーパワーは、市場で他者が明確に定量化できるような独自の能力である。

 ホリー・ミラーは、製薬・医療機器メーカーのアラガンでグローバルブランド担当ディレクターを務めていた時、あるカテゴリーデザインの戦略を構築して実行し、製品の売上げを4年間で2500万ドルから1億ドルへと伸ばした。

 彼女はマーケティングを根本から転換することによって、これを実現した。特徴や技術を売り込むだけでなく、エンドユーザーの新たな問題を再定義して名前をつけた。その結果、エンドユーザーと医師が、アラガンの製品を代替品のない独自のカテゴリーと認識するようになった。営業担当者の増員も事業支出の大幅な増加もなしで、売上げが4倍に跳ね上がったのだ。

 ミラーは、医療テクノロジー分野で従来とはまったく異なる戦略を再定義して、ネーミングを考え、訴求する自分の能力が極めて優れていることに気がついた。自分がもたらした成果は、当時の数十万ドルの年収をはるかに上回るとも思った。そして、競合他社から引き抜きのオファーが来るようになり、それは確信に変わった。

 そこで、彼女は経営幹部の一人になるのではなく、ライフサイエンス企業向けにカテゴリーデザインを行うグレイ・マター・マーケティングを創業した。自分のスーパーパワーを活かして11人のチームを率い、創業者兼社長として活動している。

資本は十分かつ適切なものが揃っているか

 予備の資金は重要なセーフティネットだが、必要な金額はあなたが思っているより少ない。起業の経費は、平均で1万~4万ドルほどだ。ただし、資金だけでは不十分で、他に3種類の資本が必要になる。

「評価資本」とは、特定の課題について繰り返し結果を出してきた実績と、あなたが支援していることで知られるクライアント層である。

「関係資本」とは、あなたの味方となる3種類の人々のことだ。すなわち、あなたが見落としたメリットを指摘してくれる人、あなたに嘘をつかない身近な人、一緒に創造的なことを楽しめる仲間である。

「知的資本」とは、他者がアクセスできて、対価を支払い、あなたが寝ている間も成果を生み出すような資産に転換した知識である。これには書籍、講座、診断、フレームワーク、そして、時間をかけずに収益化できるツールや、あなたの時間に高いプレミアム価格を設定できるようなツールが含まれる。

 ジェフ・クリムコウスキーは、中学3年生の頃から投資銀行家になりたいと考え、その夢を実現してドイツ銀行で13年間、働いた。しかし、数百万ドルの繰延報酬とマネージングディレクターへの昇進を目前に退職。小学校時代の友人たちともう一つの夢を追いかけることを選んだ。それがデュード・ワイプスだ。

 デュード・ワイプスは、トイレに流せるウェットティッシュのカテゴリーキング(その分野の王者)だ。共同創業者は、幼なじみのショーン・ライリー(CEO)とライアン・ミーガン(CMO)で、3人は大学卒業後に一緒に暮らしており、ビールとブリトーを愛する男たちにとって、普通のトイレットペーパーは物足りないと気づいた。

 サイドビジネスとして始めてから10年以上の間、ショーンとライアンはフルタイムの仕事を終えた後に午後6時から深夜まで梱包と発送を担当。ジェフは投資銀行のボーナスを運転資金として提供した。2015年に起業コンテストの人気番組「シャーク・タンク」に出演し、実業家で富豪のマーク・キューバンから出資を獲得。キューバンが会社の株式の20%を取得した。

 ジェフたちのスーパーパワーはユーモアだ。フォーチュン500の保守的なマーケティング部門や神経質な法務部門ではけっして通らないような、衛生にまつわるあけすけなジョークをソーシャルメディアで次々に発信した。

 デュード・ワイプスは急成長を遂げ、ジェフは決断を迫られた。彼は起業家としても投資銀行家としても評判が高く、上司から非常にかわいがられ、M&A(企業の合併・買収)や資本市場について深い専門知識を持っていた。これらはすべて、デュード・ワイプスのCFOとして武器になった。ショーンが言ったように「投資銀行の仕事にはいつでも戻れる」のだから。

 デュード・ワイプスは2024年に2億1900万ドルの売上げを達成し、最近は有力な消費者財向けプライベートエクイティファンドから、経営権には関わらないが大口の出資を受けることになった。

感情のコントロールができているか

 自分の感情をうまく扱えなければ、経済的に正しい判断を下すことは難しい。勤めを辞めるうえで特に厳しいのは、収入が不安定になることではなく、自己不信やインポスター症候群、孤独感がつきまとうことだ。こうした感情の揺れは、自分の製品やサービスの価値を過小評価して、顧客に頼まれていないのに値引きするなど、価格設定に混乱を招きかねない。

 ニック・ベネットは自分と同じソロプレナーに向けて、事業拡大の具体的な戦略だけでなく、ネガティブな考えや感情に対処するためのコーチングを提供し、彼らの決断を支援している。彼自身が事業を立ち上げる際に、同じ道を歩む仲間の存在がいかに大切かを痛感したのだ。

 最初は3人の起業家仲間とメッセージングのスレッドをつくり、最終的に50人以上が集まるスラックチャンネルに発展した。ベネットはコーチングとコンサルティングの世界ですでに実績があったが、コミュニティの力に気づき、自分の時間当たりの価格を大きく引き上げる機会を見出した。彼とパートナーはあるオファーで、1回の週末で3万ドルを稼ぎ出した。

名声と金銭への欲求より、自分の技能とミッションへの情熱が勝っているか

 あなたがライターなら、書いたものが評価されなくても、書き手として成長することに喜びを見出さなければならない。自分のミッションを明確にして、それと誠実に向き合い、ミッションに沿わない仕事はたとえ報酬が高くても断る覚悟も求められる。あるいは、自分が提供する解決策より、解決したい問題への熱意が必要だ。こうしたことが、イノベーションを持続してクライアントに確実に成果を届ける粘り強さをもたらす。自分の技能とミッションを愛することは、より大きな経済的な豊かさにつながるのだ。

 ダニー・バウアーは、学校長が生徒の成績と学校文化の向上を実現するために支援している。アダム・フランクルは、開発者向けスタートアップを急速に拡大させ、新たな資金調達ラウンドを成功させるために支援している。

 2人とも個人でコンサルティングビジネスを成功させていたが、自分の専門性に情熱をそそいでイノベーションを続けている。現在はそれぞれの分野で数十万ドル規模のデジタルコミュニティを運営しており、人々を大規模にサポートするとともに、自分のコンサルティング事業につなげている。ダニーのポッドキャストはランキング入りする人気を誇り、アダムは自分の得意分野について執筆した書籍がベストセラーになった。

 筆者らの調査と経験から、独立系労働者の数は今後10年で倍増すると思われる。個人の自由と経済的な自由はあまりに魅力的だ。企業や政府といった大規模な雇用の安定性が揺らいでいるいまは、なおさらだろう。また、単身世帯の割合は1940年の8%から2020年には28%に達し、扶養家族が少ないおかげで独立しやすくなっている。

 とはいえ、この変化を加速させるのは、創造したいという欲求だ。筆者らのデータでは米国の労働者の77%が、「創造的な活動で報酬を得る」ことができるなら、ぜひそうしたいと回答している。これからも多くの人が、子どもの頃の創造力を思い出し、大人になったいまだからこそ、それを収入に結びつけられると気づくだろう。その時、彼らは新しい世界に飛び込むことになるのだ。


"How to Know When to Pursue Your Side Gig Full-Time," HBR.org, July 11, 2025.