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現在の後継者育成計画は機能していない
大手上場企業のある財務担当役員が突然、辞めて別の会社へ移った。CEOと残りの経営陣は、ビジネスに混乱を来さないよう、急いで自社の経営幹部候補のパイプラインを確認し、後任にふさわしい人材を探した。以前話し合って作成した後継者リストはあったが、自信を持って任命できる候補者は一人もいなかった。結局CEOは外部で経営幹部人材を探すことにし、見つかるまでの数カ月間、あるリーダーに暫定的にその役職を兼務させた。業績は悪化し、チームは立ち往生し、会社の勢いは失われた。
これは稀なケースだろうか。けっしてそのようなことはなく、むしろ日常茶飯事である。あるフォーチュン100企業の取締役は、筆者らにこう語った。「私が取締役になってからの10年間で、CEOの後継者について議論したのは、唯一、まさにCEOが交代したその時だけでした。たしかに、上場企業の取締役会はCEOの後継について積極的に議論せよというSECの規則がありますが、SECの規則は他にもたくさんあるのです」
現在のサクセッションプラン(後継者育成計画)のほとんどは効果的とは言えず、ビジネス界は、これほど革新性やROI(投下資本利益率)が低いプロセスに多大な労力をそそぐことに飽き飽きしている。しかし、現行の後継者育成計画に、カギとなる変更をいくつか加えるだけで、明日の課題に対応できる経営幹部のパイプラインを構築し、不確実な世界で事業を継続し、持続的な成長を推進することが可能なのだ。
従来の後継者育成計画の限界
経営幹部の後継者育成計画は、何十年も前から企業人事に重要な要素であり、組織の成長とリスク軽減に不可欠なものとされてきた。それにもかかわらず、この「複雑で時間のかかるプロセス」は、前例のない社会変化と経営陣の頻繁な交代という現在の環境下で、まったく機能しなくなってしまった。
2024年、米国企業はCEOレベルを中心に、記録的な経営陣の交代に見舞われた。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの調査によると、2024年にCEO職を退任した人は、前年比16%増の2221人で、2002年の調査開始以来、最多の記録を更新した。S&P500企業では、新CEOの44%が外部採用であり、2000年以降で最高の割合であった。2025年初期もこの動向は続き、重要なポジションの交代率が今後さらに上昇する可能性を示している。このような経営幹部の流出により、企業は将来の課題に対して危険なほど脆弱で準備不足な状態に陥る可能性がある。
筆者らが所属するグローバルコンサルティング会社プロジェクトネクスト・リーダーシップが最近完了した内部調査では、企業が従来の後継者育成計画に白旗を掲げたことが明らかになった。調査は2部構成となっている。まず、過去10年間にわたる主要な出版物やコンサルティング企業の研究報告などの文献を分析し、後継者育成計画に関する既存の知見を整理した。次に、35社を超える大手企業のシニアリーダーを対象にインタビューを実施し、後継者計画が機能している点と機能していない点について、総合的な見解を収集した。
これらのリーダーたちに自社の後継者育成計画の全体的な有効性を評価させたところ、平均点は10点満点中5.5点であった。一般的な基準から言って不合格点である。さらに、企業の後継者育成計画の全体的な状況を評価させると、10点満点中4.8点というさらに悪い結果となった。
この調査結果は、他の研究結果とも一致し、現在の後継者育成計画が機能していないことを表している。人事担当者2185人と1万人を超えるリーダーを対象とした調査に基づくDDIの「HR Insights Report 2025」によると、75%の企業が内部人材の登用を優先している。しかし、重要なポジションを埋める準備の整った社員がいると回答した最高人事責任者は、20%に満たなかった。平均すると、空いているポストの半分未満(49%)しか内部候補者がいない状況である。
どのような影響があるのか。ある研究チームは、2021年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の論考で、S&P1500企業のCEOおよび「C」のつく他の人材の交代が適切に管理されないことによって失われる市場価値は、年間約1兆ドルに上ると示した。同時に、後継者育成計画の改善により、企業価値とインベスターリターンが20%から25%向上する可能性があるとも推定している。
なぜ現在の後継者育成計画は、このような不満を招いているのだろうか。当社のインタビューで明らかになった「不都合な真実」から、解決すべき課題が浮き彫りになった。