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あなたは部下に業務を任せているか
筆者がエグゼクティブをコーチングしてきた20年間を通して、ほぼすべてのリーダーシップ層で問題になるテーマがある。それは、権限の委譲に関する問題である。大半のリーダーは権限委譲の必要性を理解しており、具体的な方法を知っている人も多い。彼らにとっての難題は、「どの業務」を委譲すべきかわからないという点にある。
エグゼクティブに「どの業務を委譲すべきだと思うか」と問うと、他人に任せても大丈夫そうなタスクを記憶の中から必死に探そうとするが、その際に重要なタスクを挙げる人はほぼいない。結局、リスクの低いタスクをいくつか手放そうとするだけで、中身のある有意義な仕事を他者に任せるチャンスを逃してしまう。
現実には、多くのシニアリーダーが、些細に見えるが驚くほど時間を取られ、しかも、かけた時間に見合うだけの価値を生まないタスクに追われている。要するに、そうしたタスクは、より戦略的で投資対効果の高い業務に充てられるはずの貴重な時間をシニアリーダーから奪っているのである。
そうしたタスクを可視化し、測定するために、筆者はクライアントに、古典的な時間管理ツールである「タイムログ」を活用して、効率の悪い点や重複した業務を特定するよう勧めている。記憶に頼る代わりにタイムログを使うことで、実際にどのような業務に時間を費やしているかがデータで可視化される。
筆者が先日、コーチングを行ったCFO(ここではマイクと呼ぶ)の例を見てみよう。社内のコーポレートコントローラー(経理・財務担当者)のポジションからCFOに昇進したマイクは、時間の配分を見直すべきだと頭では理解していたが、どの業務をチームに委譲できるのか判断できず苦心していた。そこで、2週間分のタイムログデータを記録したところ、以前の職務から持ち越しているタスクが即座に明確になった。CEO向けに提出し続けていた報告書、後任のコントローラーに伝えていなかったいくつかの照合作業、さらには、自分で出席していたがチームメンバーに任せるほうがよさそうな複数の会議。すべて合わせると、月に約20時間分のタスクと会議を部下に委譲できることが明らかになった。タイムログによる学びが極めて大きいことを知ったマイクは、直属の部下全員にも同じようにタイムログを記録するよう求めた。
面倒に思えるかもしれないが、タイムログは1日の中に自由になる時間を生み出し、より戦略的な業務に回せるという点で非常に効果的な方法だ。実行する際には、「記録」「分析」「委譲」「振り返り」の4つのステップを踏むことを推奨したい。
記録
まずスプレッドシートを作り、業務時間を15分単位に区切ろう。時間枠を10分ごとに狭めたり、30分単位に広げたりしてもかまわないが、60分単位に広げるのは細かなタスクが見えなくなってしまうため推奨しない。
世の中には優れた時間管理アプリも存在するが、使い方を習得するのにある程度時間がかかるため、始める前に諦めてしまう人も多い。もし自分好みで、かつ確実に使い続けられるアプリがあるのなら、それを利用しよう。そうでなければ、たいていの人が使い慣れているシンプルなスプレッドシートが手軽なツールだ。
ログを作成したら、1日に2~3回、直近2~4時間の時間の使い方を記録する時間を確保する(大変に感じるかもしれないが、長期的には大きな効果を生む)。5分以上かかったタスクはすべて記録しよう。たとえば、誰かが立ち寄って質問してきた場合や、長いやり取りをしたテキストメッセージ、リポートを読んだ時間、会議に参加した時間などである。
最初の1週間は、とにかくすべてを記録し、内容の分析には手をつけない。何の評価も加えずに、行動の全体像を正確に把握することが目的だからだ。また、ログの入力は1日に複数回行い、その日の仕事が終わった後や翌日に持ち越さないようにしよう。昨日のランチのメニューさえ覚えていない人が多いのに、自分の席に立ち寄った誰かの質問に答えるのに費やした時間の長さを思い出せるはずがない。
分析
少なくとも2週間分のデータがそろったら、時間の使い方の見直しに着手する。まず、記録したタスクを次の4つのカテゴリーに分類しよう。
委譲すべきタスク
さほど問題なく他人に任せられるタスクである。ここに思った以上に多くのタスクが入っても驚く必要はない。たとえば、(マイクのように)月次または四半期ごとの報告書作成や、直属の部下が出席すべき会議がこのカテゴリーに当たる。前職から持ち越してきたタスクや、前任者から引き継ぎ、疑問に思うことなく継続しているタスクもありうるだろう。
委譲可能なタスク
他人に任せることは可能だが、手放す前にある程度の時間と労力が必要になるタスクである。なかには、「この業務をこなせるスキルや経験を備えた人がチーム内にいない」と感じて、自分で担当し続けているタスクもあるかもしれない。
筆者がコーチングを行った別のCFO(ティナ)は、社長向けの年間予算のプレゼンテーションをみずから作成し続けていた。部下にはこの手の報告書に必要な専門知識と経験が不足しており、自身が考える基準を満たせないとの懸念があったからだ。そこで、筆者はティナに「あなたが担当し続けたら、部下はこのプレゼンの作り方を学べない」と指摘した。幸いなことに、人に何かを教えるために時間を割くと、数週間から数カ月後(タスクの中身による)には、その労力は報われる。自分の時間を別の業務に回せるだけでなく、部下の成長にもつながるのである。
委譲すべきではないタスク
自身の職務の中核を成す業務で、自分のスキルセットや役職があるからこそ効果的に遂行できるタスク。「委譲すべきタスク」と「委譲可能なタスク」を部下に任せることで、このカテゴリーの活動により多くの時間を充てられるようになる。
筆者がコーチングを行ったあるCEOは、業務量が多すぎて「戦略的思考」に費やす時間を確保できないと嘆いていた。日々の業務に追われ、前任者やメンターのようにビジネスと向き合う時間を持てていないと感じていたのだ。だが、多大な時間を取られていたいくつかのタスクを部下に委譲したところ、毎週90分を自分のために確保し、財務予測をチェックしたり、業界誌を読んだり、自社のビジネスに関するビジョンを磨いたりする余裕が生まれた。
自動化または排除すべきタスク
最後のカテゴリーには、あなたも部下も取り組むべきでない業務が入る。形骸化したタスクや、そもそもやめるべき会議、アプリやAIの助けを借りて自動化できるタスクなどである。
具体的には、あなたが出席する必要のない会議、誰も読まない進捗報告、自動化可能な手作業の分析などがこれに当たる。たとえば、会議中に他の仕事をこなしても会議の質に悪影響が生じないのなら、あなたがその会議に出席する必要はないと考えられる。
委譲
こうした情報がそろったら、次に委譲すべき業務のリストを作成しよう。筆者のクライアントは、まずは「委譲すべき」のカテゴリーに入ったタスクから、引き継ぎ計画を立てることが多い。
まず、強みや関心、成長目標が、委譲したいタスクと一致する人を選ぶ。そのうえで、その人物が早く仕事に慣れることができるよう、タスクに関するメモや事例、資料を集めておく。最後に、本人の関心度を確認し、タスクの説明や期待事項の伝達、質問の受け付けなどの時間を設けよう。
こうした移行作業に費やす期間は、タスクの性質と、部下の準備の度合いによって変わってくる。「委譲可能」なカテゴリーに属する複雑なタスクの場合は特に、期間を長めに想定し、進捗状況の確認頻度を増やす必要があるかもしれない。最初の数回は一緒にタスクに取り組み、そのうえで少しずつ手を引いていくという方法も考えられる。
さらに、これまでずっと参加してきたが、実際には出席する必要のない会議を委譲することも検討したい。会議を部下に任せる際には、準備と説明が不可欠だ。会議全体の目的、出席者に求められるもの、自分がこれまで出席してきた理由、自分が出席しなくなった場合に共有してほしい情報などについてメモを作成しておこう。「委譲可能」なタスクの場合と同様に、当初は代わりに出席する部下と一緒に会議に参加して、質問に答えたうえで、完全に手を引く、というプロセスが望ましい。
一連のプロセス全体を通して、特に部下が初めてミスを犯したり、ためらいを見せたりするタイミングで、やはり自分で担当したいという誘惑に駆られることがあると知っておこう。筆者がコーチングを行ったCFOのティナは、年間予算のプレゼンテーション業務を部下に委譲した際、チームがその業務に取り組む日に休暇を取り、映画を見に行った。そうすることで、状況を確認したくなる誘惑を遠ざけたのである。
タスクを委譲するたびに映画に行くべきだ、という意味ではない。だが、そうした局面で忘れてならないのは、「あなた自身もそのタスクを引き受けた当初は、いまほどうまくこなせていなかった」ということだ。
振り返り
最後のステップは、自分の時間をどのように再配分できたかを分析することだ。たとえば2カ月ほど経った時点で、数週間分のタイムログを再び記録し、委譲への投資がもたらしたリターンを計算してみよう。少なくとも、当初のタイムログを見返して、かつて会議やタスクにどれだけ時間を費やしていたか、そして、それが何に置き換わったのかを把握すべきだ。CFOのマイクの場合、この取り組みによって、委譲したタスクに月間20時間を費やしていたことが浮き彫りになった。
タイムログがもたらす投資対効果をさらに詳細に把握したい場合は、委譲したタスクに費やしていた時間数に、自身の時間単価を掛け合わせてみよう(時間単価は年間の総報酬を年間労働時間で割った数値)。タスクを委譲した相手よりも給与が高いと仮定すれば、あなたが戦略的な業務に集中できるようになったおかげで、どれだけの価値が生み出されたかが分かるだろう。
* * *
タイムログから得られるデータは、委譲すべきタスクと委譲可能なタスクを見極めるうえで非常に役立つ。このツールを使うメリットの一つは、目の前のタスクへの見方が変わる点にある。では、もう一つのメリットは何だろうか。それは、自分の1日をより戦略的で、ビジネスへのインパクトの大きい業務に費やせることだ。
"A Data-Based Approach to Delegating,"HBR.org, July 21, 2025.







