汎用型と特化型、どちらのAIモデルを自社のビジネスに使うべきか
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サマリー:一般的に、AIは大規模モデルほど高性能だと見なされているが、医療や金融などの専門領域では必ずしもこの考え方は通用しない。汎用型AIは専門家特有の文脈に即した推論を再現できず、重要な判断を誤るリスクがあるか... もっと見るらだ。筆者らは医療保険の事前承認AI開発を通じ、この課題に直面した。本稿では、その経験に基づき、経営者が専門領域でAIソリューションを選定する際の指針を共有する。 閉じる

特化型AIか、汎用型AIか

 AIをめぐる通説として、より大規模なモデルほどよりよい結果を生むとされている。筆者らは医療保険会社および医療保険の第三者管理機関に向けた仕事を通じて、気づいたことがある。この前提は多くのケースに当てはまるものの、AIが一般的なタスクから専門的に特化された領域に移ると、通用しなくなるのだ。

 筆者らは、事前承認用の生成AIシステムを構築してきた。事前承認とは、医師の推奨する治療が患者の保険契約でカバーされるかどうかを、医療保険会社が判断するプロセスだ。本稿では、専門的な問題解決向けのAIへの投資を検討している経営幹部が、汎用型または特化型AIモデルのどちらをどのように選ぶべきかについて、筆者らが学んできたことを共有する。

規模が最大の価値をもたらす時

 チャットGPTやクロード、ジェミニのようなよく知られた生成AIの製品、サービスは、数多くの領域から集められたテキストと画像で学習した大規模言語モデル(LLM)やその他のAI技術を基盤としている。このため、考えられる限りのあらゆる問いに答えることが可能のように見える。ビジネスリーダーはまさにそれを求めて、これらの汎用型モデルに実際に頼りたくなるかもしれない。しかし、その幅広い能力がどの部分で最大の競争優位と業務上のメリットを生むのかを認識することが不可欠である。

 端的にいえば、これらのシステムが多くの企業用途において優れている理由は、まさに特化型ではないからだ。その価値の源泉は、領域横断的に幅広く情報を統合し、予想外の関連づけを行い、ビジネスコミュニケーション全般に対応する能力にある。判例、技術仕様書、顧客心理を同時に活用できるのだ。

 コンテンツを担当するチームの創造性と生産性を強化、促進したい組織に対し、汎用型モデルは比類なき多用途性を提供する。リーダーはそれらのモデルを洗練されたゼネラリスト、つまりチームにおける最も貴重な万能プレーヤーのAI版と考え、相応に活用するのが賢明だ。

 対照的に特化型の生成AIモデルは、どの情報を検索、取得すべきかだけでなく、その情報が特定領域の意思決定の枠組みの中でどう機能するのかも理解する。これらは汎用型AI技術のコア能力に、高度にコンテクスト化された学習用データと手法を追加する生成AI技術であり、結果的に医療や金融など特定の領域において、汎用型AIモデルではとうてい不可能なレベルで賢く正確な出力を生成することができる。

 たとえば、医師による治療法の決定を支援するために設計された特化型モデルは、患者の現在の臨床状態と病歴におけるどの側面が関連しているのかを把握するだけでなく、適切な治療プロトコルを特定し、そのプロトコルを裏づける証拠の強度も判定できなくてはならない。