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サプライチェーンの不透明性に対処する
関税率がたびたび変わり、米国と世界各国の貿易交渉が続く中、企業は目先の利益をどのように維持し、来年度以降の予算と調達をどのように計画すればよいのか、頭を悩ませている。筆者らはこの半年あまり、この大きな不透明性に対処する計画立案方法を確立した企業と協力してきた。これには、動的ストレステストが伴う。
サプライチェーンのストレステストは、サプライチェーンの脆弱性を特定し、それを軽減する措置を講じるうえで重要だ。しかし、毎年または半年ごとに静的ストレステストを実施する程度では、現在の貿易戦争がサプライチェーンに日々もたらすボラティリティに備えるには不十分だ。しかし対策はある。新しいAI技術と専門家がもたらす市場インテリジェンスを組み合わせれば、急速に変化する環境に対処する能力(動的ストレステスト)を育むことができる。
本稿では、そのようなシステムを開発するステップを解説する。これは、実際にこうしたシステムを構築した米企業2社の聞き取り調査に基づく。一方は、オートメーション・航空宇宙システムの製造大手(以下、AASと呼ぶ)で、もう一方は、液化天然ガスの輸出大手(以下、LNGと呼ぶ)だ。どちらも、本稿では社名を明かさないようにとの要請を受けている。
ステップ1:バリューチェーンをマップ化する
まず、ある製品について、ティア1(メーカーに直接供給するサプライヤー)、ティア2(ティア1サプライヤーのサプライヤー)、そしてティア3(ティア2サプライヤーのサプライヤー)から供給される部品や材料と、これらサプライヤーの工場、倉庫、流通施設がある場所を特定する。その上で、サプライヤーから供給される部品を、部品表および関連製品の収益と結びつけたデータベースを作成する。こうすると、主要サプライヤーのオペレーションの混乱が、売上高にどのような影響を与えるかを迅速に評価できるようになる。コロナ禍でサプライチェーンの混乱が起きた時、AASもLNGもサプライチェーンをマッピングして、そのレジリエンスを高めるとともに、総勘定元帳(G/L)の収益の流れと結びつきを明らかにすることに投資した。
第一次トランプ政権は2018年、中国製品に追加関税を課すことを発表した。このためAASは、ティア1の供給基盤の多くをメキシコに移転した。ところが、経営陣がティア2サプライヤーのマッピングを進めたところ、ティア1サプライヤーが供給する部品の多くが、中国にあるティア2サプライヤーからの輸入品であることがわかった。サプライチェーンのレジリエンスチームはいま、アジアのティア2サプライヤーから供給される商品や材料に関税が適用されるリスクを軽減するため、新しい供給元を探している。
LNGは、大規模な設備投資計画に使われる重要な機械加工部品を中国で生産しているティア1サプライヤーとティア2サプライヤーを特定した。さらなる分析により、LNGの経営陣は、他にも多くのティア1サプライヤーが、新たな関税の対象となるアジアのサプライヤーからティア2部品の供給を受けていることを把握した。ティア1サプライヤーとティア2サプライヤーとのさらなる話し合いで、アジア以外の国に姉妹会社や部門があることがわかり、次の設備投資に使われる部品はこれらの地域から調達されることになった。
ステップ2:情報を集める
2025年4月2日にドナルド・トランプ米大統領が新たな関税案を発表するまで、米国が世界数十カ国に対して2桁あるいは3桁の関税率を適用することになる(ましてやその後多くの免除や除外が設けられる)と予想していたビジネスリーダーはほとんどいなかった。AASもLNGも、追加関税が発表されることは予想していたが、その規模については予想していなかった。サプライヤーのマッピング作業は、脆弱性を見つけることにすでに役立っていたが、4月2日までは具体的な対策は立案されていなかった。