
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
生成AIで市場調査を低コスト、短時間で行う
企業はイノベーションの初期段階で、「どのアイデアが、さらなる投資に値するのか」というお馴染みのジレンマにぶつかる。従来の解決策である人間中心の市場調査は貴重な洞察をもたらすが、往々にして時間がかかり、コストも高く、調査範囲に制約がある。一方、生成AIは興味深い新たな手段を提供する。それは仮想顧客だ。
チャットGPTやジェミニのような大規模言語モデル(LLM)は、コンテンツやアイデアを生成する能力で注目を集めてきた。一方、商品や機能のコンセプトに対する顧客の反応をシミュレーションする能力については、まだあまり探求されていない。筆者らの研究は、LLMを注意深く使用すれば、仮想フォーカスグループとして機能し、人間を対象とした調査に比べてはるかに短い時間と低いコストで、顧客の選好に関する初期段階の洞察を得られることを明らかにした。
LLMは商品のアイデアの創出に役立つだけではなく、テストにも活用できる。商品の構成を体系的な形で入力すると、LLMは「仮想上」の支払意思額(WTP:ウィリングネス・トゥ・ペイ)を推測し、さまざまな選択肢を比較し、失敗の可能性が高いアイデアを警告することさえできる。そのすべてを人間への調査なしにできてしまうのだ。歯磨き粉、ノートパソコン、タブレットといったカテゴリーでの複数のコンジョイント分析で、特に専有データでファインチューニング(微調整)したLLMは、現実の消費者の選好を驚くほど忠実に推測するという結果が出た。
このアプローチを実践すれば、コスト削減や時間短縮の効果だけでなく(もちろん、それも重要だが)、イノベーションのファネルの入り口が広がり、初期のアイデアをより厳密かつ大規模に探求していくことができるだろう。
テキスト生成から市場シミュレーションのツールへ
LLMは、自然言語で表現された商品のレビューや会話、行動パターンを含む大規模なデータセットでトレーニングされる。そのため、商品に関する構造化された選択式の質問に驚くほど適切に回答できる。
筆者らの研究では、人間対象の市場調査を模倣した商品比較の質問を、LLMに直接与えるプログラムを使用した。たとえば、「コルゲートの2.99ドルのフッ素配合歯磨き粉と1.99ドルのフッ素なし歯磨き粉では、どちらを買いますか」というような質問だ。何百ものランダム化された商品の構成について、こうしたクエリを反復し、模擬顧客の回答の分布を生成した(注:本研究では、チャットのインターフェースではなく、LLMに直接、クエリを送るプログラムを使用)。その後、標準的なコンジョイント分析手法によって、さまざまな商品の特徴に対するWTPを推測した。
また、LLMの回答を評価するために、人間のサンプルにも同じコンジョイント分析を実施した。すると、LLMは多くの馴染みのある機能について、現実的かつ正しい方向性で選好をしていたことがわかった。たとえば、仮想顧客は歯磨き粉のフッ素配合や、ノートパソコンのRAMの増設について、人間のサンプルによく似た評価をしていた。さらに、模擬回答の分布は価格と機能の間に存在する重要なトレードオフを捉えていた。
重要なのは、これが単にいくつかの都合のよい例を選んだのではないということだ。LLMは複数の商品カテゴリーで、一貫して、人間が回答した結果と一致する選好順位を生成した。予備調査のツールとしてのLLMの能力は歴然としている。LLMは正式な調査を始める前に、弱いアイデアを初期段階で浮き彫りにし、どの方向性が有望なのか、優先順位をつけることができる。