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財務部門のAI活用で価値がもたらされていない理由
筆者らは過去7年間、さまざまな業界のCFOや財務リーダー、そしてビジネスパートナーと緊密に連携して、「財務部門がAI時代に後れを取らず、リードするためには何が必要か」という問いへの答えを探ってきた。ベルギーにあるフレリックビジネススクールの財務リーダーシップ&DXセンターでは、数百件にも上るエグゼクティブとの会話や研究プロジェクトを分析してきた。この取り組みの重要な節目となったのは、2023年に筆者らのデジタル成熟度診断が『MITスローンマネジメントレビュー』誌に掲載されたことだ。この診断は、財務チームがAI主導の未来に向けた準備段階を評価する役に立つ。
これ以降、100人以上のCFOと財務担当シニアリーダー(多くは多国籍企業に所属する)が調査に参加した。また、フォローアップ調査では、企業レベルのデータ(財務的な余力、人員の安定性、組織規模など)を、彼らの回答と統合して分析した。その結果、財務リーダーが自分のAI準備体制をどのように認識しているかだけでなく、職場の構造的な環境も捉えることができた。これらのデータを重要な結果(つまり財務部門が先を見越した戦略的ビジネスパートナーとして機能する能力)と結びつけることで、AIを活用した財務変革の成功を牽引する要因は何か、そして、その努力が不十分になりがちな領域を、より正確に理解することができた。
その結果は、繰り返し浮上するテーマを浮き彫りにしている。すなわち、AIは広く導入されつつあるが、実際のインパクトは明確になっていない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が2025年4月に指摘したように、企業におけるAI導入レベルは「驚くほど高い」が、大きな見返りはほとんど報告されていない。『フィナンシャル・タイムズ』紙も同様の考察を示しており、AIは効率を高めるかもしれないが、組織内の連携がなければ戦略的価値をもたらすことはめったにないとしている。
財務チームはこのギャップを痛感している。彼らは、引き続きリスクを管理し、コンプライアンスを確保し、成長機会を見つけ、正確な財務報告および事業報告を提供しつつ、AIイニシアティブを加速することが求められている。このバランスを取るのは難しい。2025年7月に専門誌『管理会計研究』(MAR)に掲載された調査は、この現実をよく捉えている。財務プロフェッショナル137人が、日常業務と並行して、自動化や分析、AIといった複数のデジタルイニシアティブを動かしているため、混乱や過重負担を経験していると答えたというのだ。
シニアエグゼクティブも同じ懸念を抱いている。人事管理システム「ワークデイ」のCFOであるゼイン・ロウは、AIへの信頼を構築することや、データの複雑化を管理することの難しさを指摘した。米銀大手ウェルズ・ファーゴCFOであるマイク・サントマッシモは、AIが人間の意思決定を圧倒するのではなく、人間を「補完」する必要があると強調する。
データと経営幹部のインサイトを統合して考えると、同じ結論が導き出される。すなわち、最大の問題はテクノロジーではなく、財務チームがテクノロジーを効果的に吸収し、応用できる体制にあるかどうかにあるのだ。筆者らが最近集めた調査と企業データは、摩擦がどこで生じる傾向があり、それを克服するために財務チームは何をする必要があるかを明らかにしている。
AIファースト思考の罠
AIは、財務を真の戦略的触媒に変える可能性を秘めている。しかし、そのシフトは自然に起こるものではない。
筆者らの調査では、真の進歩を一貫して促す2つの能力が示された。それはAIを実験する意欲と、職能横断的な強力なコラボレーションだ。新しいツールを積極的にテストして応用するチームは、行動に移すことができるインサイトをもたらし、時代遅れのKPI(重要業績評価指標)に疑問を呈し、将来を見据えた分析を提示する可能性が高い。同時に、職能を超えて協力する財務チームは、ビジネスニーズと密接に連携して、業務上の決定に影響を与えることにより、信頼を獲得する。どちらの行動も貴重であり、それ自体が、より強力な戦略的インパクトと相関している。