『ハーバード・ビジネス・レビュー』100年の歴史から厳選した、これからのリーダーへの指針
サマリー:1922年の創刊以来、戦略、マーケティング、リーダーシップ、人材育成など、各分野で新たなコンセプトを提示し、世界のリーダーに読み継がれてきた『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)。その100年の歴史を踏まえ、「これからの100年」を生き抜くための普遍的な論点や考え方をセレクトしたのが、書籍『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』だ。本稿では、HBR編集長(当時)のアディ・イグナティウスが本書の内容について解説した序章を掲載する。

過去1世紀で最も優れ、最も永続的なアイデア

 100年前、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)が創刊されると、比較的新しい分野だった企業経営に斬新なアイデアをもたらすものとして歓迎されました。

 当時の米国は活気に満ちていました。第1次世界大戦の埃がようやく落ち着き、さまざまなビジネスが軌道に乗り始めた頃です。この興奮は、1929年に世界恐慌によって冷水を浴びせられるまで続きました。自動車製造やその他の消費者産業は活況を呈していましたが、これらの企業を効果的に指導するためのプロセスは、まだ生まれたばかりでした。

 HBRはハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の歴史上最も長く学長を務めたウォレス・ブレット・ドナムの発案によるもので、もともとは季刊誌でした。歯科医の子息であったドナムは、企業が最大の難題にどのように対処しているかという厳密な調査に基づいた適切な「ビジネスの理論」が、経営者に正しい判断を教示できると確信していました。これなくしては、ビジネスは「非体系的で場当たり的、多くの人にとって下手なギャンブルを打つようなもの」になってしまうと、1922年のHBR創刊号で彼は書いています。

 HBRの初期の記事の多くは、オペレーションの効率を上げることに焦点を当てたものでした。その代表的なものが「科学的管理」で、当時最も有名だった経営思想家、フレデリック W. テイラーが提唱しました。機械技師からコンサルタントに転身したテイラーは、事実上あらゆる産業プロセスを数値化して測定し、効率と一貫性を高めるために最適化できると信じていました。

 しかし、産業や利害関係者がより複雑になるにつれ、ビジネス界は他のアプローチやアイデアを必要とするようになります。そしてHBRは、この進化する考え方を伝える重要な情報源として、マクロ経済のトレンドがビジネスに与える影響、労働組合への対応、金融の新しいルールへの適応など、幅広いトピックをカバーするようになりました。

 やがて、HBRは社会とともに新たな領域にフォーカスするようになります。かつては「ソフト」だと思われていたトピック──従業員のモチベーション、真のリーダーシップ、ワークライフバランス──は、健全な組織にとって欠かせない側面だと認識されるようになったのです。HBRは新しいプラットフォームと製品を立ち上げ、雑誌だけでなく、ウェブ、ビデオ、ポッドキャスト、ソーシャルメディア、さらに2020年からはティックトックでもアイデアを発信していくことになりました。HBRが得意とする長文の記事はいまなおHBRの至宝ですが、今後はより短い記事、グラフィック、データ分析などを通じて読者に大きな価値を提供することを目指しています。

 HBRは、現代ビジネスの歴史において最も影響力のある数々のアイデアを発表してきました。そこで本書『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』のコレクションに当たっては、ビジネス環境が変化しても、また他の筆者がこれらの概念に独自の考え方や研究を加えても、数十年にわたって適切であり続けるものを選ぶよう心がけました。記事の中には、今日の基準では時代遅れと思われる言葉や、好ましくない表現が使われているものもあります。深慮のうえオリジナルの表現を残すことを選択しましたが、一部の文章が不快に感じられる場合もあることは認識しています。

 本書はHBRの歴史でもなければ、時代とともにどのように変化してきたかを示す年表でもありません。むしろ、過去1世紀にわたるHBRの最も優れた、そして最も永続的なアイデアを示す記事を紹介するものです。

 今回取り上げた記事には、過去に遡ることで生じるバイアスがあるかもしれません。30本の記事のうち、最初の60年間に書かれたものは5本だけで、また9本は2015年以降のものです。これは、ビジネスがいかに変化したかを反映しており、初期の記事の多くは焦点がぼやけている、ないし、一時的な洞察しか提供できていないことを意味しています。

 最近では、戦略、ビジネスモデル、変革のマネジメント、テクノロジーなど、多くの読者に広く関連するトピックについて、より多くの記事を掲載するようになりました(この文章を書いている時点で、毎月約1100万人のユニークビジターが我々のウェブサイトを訪問しています)。

 また、サステナビリティ(持続可能性)、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(多様性と包摂)、ファクトベースの意思決定など、長期的な成功に欠かせない価値観への一貫したコミットメントを反映させるため、これらのテーマに触れた記事もいくつか選定しています。

ドラッカー、ポーター、レビットなど伝説的な著者陣

 本書『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』で紹介される筆者、論文や記事は、いずれも伝説的なものばかりです。

 現代マネジメントの父として広く知られるピーター F. ドラッカーからは、1999年に発表された「自己探求の時代」を第1章にて紹介します。HBSの著名な教授であるマイケル E. ポーターからは、1979年の論文「競争の戦略:5つの要因が競争を支配する」を第4章にて紹介。これは、企業の競争力を理解するために多くの研究がなされている筆者の5つの力の枠組みを初めて取り上げたものです。

 クレイトン M. クリステンセンについては、1995年にジョセフ L. バウアーと共著で発表された「イノベーションのジレンマ」を第6章にて紹介しますが、これがまさに、クリステンセンの代表的な概念である「破壊的イノベーション」を紹介した論文です。また、W. チャン・キムとレネ・モボルニュによる2004年の論文「ブルー・オーシャン戦略」を第5章で紹介します。いまや人口に膾炙したこの言葉を世に出し、新しい市場を創造する無数のイノベーターにインスピレーションを与えた論文です。

 また、最近の記事では、リーダーが習得すべき最重要課題として注目されているトピックや課題を取り上げています。ジェンダー、人種、ダイバーシティ、テクノロジーと人工知能(AI)、気候変動、パンデミック、仕事の未来などに関する記事が含まれています。ビジネスの世界が進化し続ける中、HBRは長期的な成功を目指す明日のリーダーのための不変の指針として、その進化に対応していく所存です。

 最後に、HBRの歴史上重要な人物であるセオドア・レビットの著作について触れましょう。ドイツ系米国人の経済学者であり、HBSの教授でもあるレビットは、1985年から1989年までHBRの編集長を務め、HBRのミッションとアプローチを拡大させたといわれています。1960年に発表された代表的な論文「マーケティング近視眼」を第26章にて紹介しますが、これは、企業が成功するためには顧客のニーズの真に意図するところを注視する必要があることを、いち早く鋭く論じたものです。

 レビットは、HBRのことを「書けない人が、読まない人のために書いた雑誌」と冗談めかして言うことがありました。いささか自虐的な表現ですが、しかし、このコレクションに収められた論文や記事の数々は、そのアイデアの深さにおいて絶妙であり、ビジネス思考の歴史において最も広く読まれ、称賛されているものに違いありません。

 本書『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』を通じて、またこれらがこれからも皆様のインスピレーションの源とならんことを願っています。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長 アディ・イグナティウス

『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』

[編]ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
[訳]DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
[内容紹介]1922年の創刊以来、戦略、マーケティング、リーダーシップ、人材育成など、各分野で新たなコンセプトを提示し、世界のリーダーに読み継がれてきた『ハーバード・ビジネス・レビュー』。その100年の歴史を踏まえ、「これからの100年」を生き抜くための普遍的な論点や考え方をセレクトし、お届けする。

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