優れたリーダーシップを発揮する米陸軍特殊作戦軍の育成法
Elizabeth Fraser/DVIDS
サマリー:現代の不確実な世界において、企業のリーダー育成は喫緊の課題であるが、従来のエグゼクティブ教育はマネジメントとリーダーシップを混同し、ニーズに応えられていない。この課題に対し、70年以上の実績で応えている... もっと見るのが米国陸軍特殊作戦軍だ。彼らは「失敗のシミュレーション」という経験を通じた訓練で、危機的状況を乗り越える真のリーダーを育成してきた。本稿では、この陸軍特殊作戦軍の育成法をビジネスに応用する具体的な手法を論じ、リーダーシップが機能しない4つの原因とそれを克服する訓練法を紹介する。 閉じる

リーダーシップ育成に長けた陸軍特殊作戦軍

 最近、筆者は、ヘルスケア、小売り、金融、フードサービス、製造、テクノロジー、バイオテクノロジーなど、多岐にわたるフォーチュン100に名を連ねる米国の大企業の人事担当幹部数十人を対象に調査を行った。その結果、いま米国企業で最も求められているスキルは、ボラティリティの高い環境におけるリーダーシップであることがわかった。そうしたスキルを求める声は、AIに精通していることを求める声より大きい。

 このようなニーズが増大している背景には、近年、世界の不確実性が高まり、新しいテクノロジーの登場により現状が激しく揺さぶられ、経済の不安定性が増しているという事情がある。

 しかし、先を見通せない今日の世界において、企業のリーダー育成は、実際のニーズに追いついていないのが現実だ。

 リーダーシップ研究者のウォレン・ベニスが1961年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した論文"A Revisionist Theory of Leadership"で初めて指摘したように、市場規模500億ドルのエグゼクティブ教育産業はしばしば、リーダーシップとマネジメントを混同してきた。

 その結果として、エグゼクティブ教育は、マネジメントスキル(会計や積極的傾聴、データに基づいた意思決定など)の改善に関しては成果を挙げてきたが、それに比べると、ボラティリティの高い環境でリーダーシップを発揮するためのスキル(主体的な行動力、戦略ビジョンなど)の育成を目的とするカリキュラムが充実しているとは言いがたい。

 しかし、70年以上にわたり、そのようなカリキュラムを実践してきた組織が一つある。それは米国の陸軍特殊作戦軍だ。陸軍特殊作戦軍は、何万人もの兵士たちに高いレベルのマネジメントスキル(パフォーマンスの水準維持やオペレーションの最適化など)を育むためのトレーニングを行い、リーダーとしての課題(チャンスを活かすことや、イノベーションに乗り出すことなど)に取り組むスキルを身につけさせてきた。

 この目的を達成するために、陸軍特殊作戦軍はジョン F. ケネディ特殊戦センター・アンド・スクール(ノースカロライナ州)にトレーニングを行う体制を整備し、経験を通じた学習のエクササイズを受けさせている。このプログラムは、徹底したアセスメントにより有効性や妥当性が実証されている。

 ここで実践されているエクササイズがビジネススクールや民間のリーダーシップ講座の類いに取り入れられたことはない。研修内容が軍の秘密扱いであることも一因だが、理由はそれだけではない。極めて専門特化した内容であることも理由の一つだ。同プログラムは、最精鋭戦闘部隊特有の課題と環境を前提にしている面が大きい。

 しかし、この4年間、オハイオ州立大学の筆者の研究室は陸軍と協働して、陸軍特殊作戦軍のカリキュラムを土台に、汎用的なリーダーシップ研修を確立しようと努めてきた。その成果に基づく研修プログラムは、陸軍の医療部門、工兵部門、兵站部門、情報部門などで採用されてきた。また、筆者の研究室は、陸軍特殊作戦軍の支援の下、この方法論をビジネスの場にも応用し、さまざまな業種のあらゆる規模の企業でマネジャーをリーダーへと移行させてきた。

 そこで本稿では、陸軍特殊作戦軍のようにリーダーを育成するにはどうすればよいのかを論じる。

 まず、陸軍特殊作戦軍のカリキュラムが既存のエグゼクティブ教育とどう違うのかを明らかにする。その違いは一言で言えば、経験を通じたエクササイズにより、受講者の脳に、失敗の経験から学ぶよう促すことにある。次に、リーダーが失敗する理由として陸軍特殊作戦軍が見出した4つの主たる要因を指摘し、それらの問題の解決策も示す。そして最後に、「失敗のシミュレーション」のエクササイズを詳しく紹介する。このエクササイズを採用すれば、あなたの会社でも陸軍特殊作戦軍流のトレーニングを実践し、社内のすべてのマネジャーがボラティリティの高い環境でリーダーシップを発揮できるようになるだろう。

陸軍特殊作戦軍はどのようにリーダーを訓練しているのか

 陸軍内部の分析によると、2005~2020年に陸軍特殊作戦軍のリーダーシップトレーニングを終えた兵士たちがリーダーとして成功する割合は90%を超えている。この調査では、「成功」を複数の基準により判断していた。たとえば、以下のような要素だ。

・高潔性
・思考の敏捷性
・健全な判断力
・革新性
・模範を示す姿勢
・人材の育成
・課題の達成(具体的には「計画を立案・実行しつつ、ミッションの達成に向けて方向性と指針と明確な優先順位を示す」ことができているかどうか)