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混乱の時期は変革のチャンス
変革のマネジメントに関する従来のアドバイスは、「小さな成果」の達成、連帯の構築、最小限の投資によるパイロットプロジェクトの提案など、段階的な戦術に力点を置いてきた。安定した時期には、こうしたアプローチによって機運を高め、ステークホルダーと従業員双方の指示を得て、硬直した現状を和らげられることがわかっている。
だが、混乱の時期、たとえば危機のまっただなかや市場が激変している時に、リーダーが段階的な変革の戦術を取ると、業績が低迷するリスクがある。筆者らはこれまでの研究とさまざまな組織と協力した経験の中で、混乱期になると、官僚主義や抵抗が一時的に緩和され、リーダーの対応次第で変革を進めやすくなる、つかの間のチャンスが生じるのを見てきた。
たとえば2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックの発生から数カ月間、本稿執筆者の一人であるジュリア・ディベニーニョと、イェール大学経営大学院での共同研究者であるエリザベス・ヤンは、病院のマネジャーとスタッフが直面する困難を調査していた。意外なことに、マネジャーはこの危機にもよい面があると報告した。一括注文や実験の効率的なプロセス、患者の検査用の携帯型エコー装置、経験の少ない看護師をサポートする主任看護師の新設など、長年、病院に求めていた業務変革が、突如として承認されたのだ。
混乱の最中には変革を進めやすいといっても、けっしてそれがうまくいくことが保証されているわけではない。組織論の研究によれば、組織が脅威にさらされた時には、適応する可能性と同程度に硬直化する可能性もあることが示されている。リーダーが危機を逆手に取って、実現したい変革を推進するためには、先を見越して行動し、機に乗じることが必要だ。「せっかくの危機を無駄にするな」というのは誰もが知る格言だが、忘れられがちだ。リーダーが混乱の中で変化を恐れたり、他のことに気を取られたり、従業員にさらなる負担をかけたくないと思ったりすることが、その理由だ。そうした状況は、危機に直面したエグゼクティブチームや、パンデミック期の現場マネジャー、2008年の世界金融危機下における多角経営企業にも見られた。
だが、ただ努力すればよいのではない。混乱期には、変革のリーダーは通常とは異なる戦術を取ることも必要だ。ディベニーニョとその共同研究者がパンデミック中に調査した病院のマネジャーの成功した変革リーダーシップの手法や、もう一人の本稿執筆者ミカエラ J. ケリッシーが同じ期間に面接したリーダーシップチームの手法には、変革を成功させたリーダーに共通するパターンが見られた。変革に成功したリーダーたちは、すぐにでも実施できるアイデアを見つけ出し、切迫したニーズに対処できるようにそれらを再構成し、迅速に行動し、大胆な構想を抱いていた。
私たちはいま、テクノロジー、健康と医療、自然災害、地政学的状況などのあらゆる領域において、驚くほど頻繁に危機や劇的変化が起こる時代に生きている。こうした混乱の中で変革を推進しようとする人たちが、人々を仲間に引き入れたい時や、上級リーダーから承認を得たい時、あるいはパートナーに影響を与えたい時に、上述のアプローチがどのように機能するのかを詳しく述べたい。だが最初に、このアプローチがとりわけ混乱した状況で価値を発揮すると、筆者らが考える理由を説明しよう。
混乱の最中だと変革を推進しやすい理由
南カリフォルニア大学教授ウェンディ・ウッドと共同研究者による数十年にわたる研究は、大きな変化が起こっている時期は、個人に染みついた習慣を変える絶好の機会になることを明らかにした。たとえば、たばこを完全にやめる最適なタイミングは、新しい土地への転居や結婚・離婚など、人生の大きな変化の時期だという。身の回りのあらゆることが変化している時は、従来の習慣をやめることや新たな習慣をつくることをとりわけ受け入れやすくなる。古い習慣を支えていた環境が覆され、新しい習慣をつくる余地ができるからだ。
別の研究は、同じロジックが組織にも当てはまることを示唆している。市場環境が激しく混乱すると、惰性や官僚主義、抵抗は、外的な要求に強いられて、突然、いっきになくなっていく。古いルーチンを変えることが可能になり、特に喫緊の問題を解決する新しいアイデアは承認されやすくなる。同僚も、仕事の他の面が変化している時には、働き方を変えることを受け入れやすい。
何らかの出来事によって、多くの人が認識する形で組織の安穏とした状態が根底から覆され、「危機」、「(仕事の)抜本的な変更」、「前代未聞の時期」などが話題にのぼるようになったら、他の変革を推進する機が熟したということだ。では、どのように実行すればよいのだろうか。
1. 適切なチャンスを選び、再構成する
2003年、メリーランド州ボルチモアの由緒あるボルチモア・アンド・オハイオ鉄道博物館は、豪雪によって屋根が崩落するというアクシデントに見舞われた。多くの収蔵品に被害があり、再建費用は保険でまかなわれる金額よりも高くつく見込みだった。だが、博物館館長は業者を呼んで修復させるだけでは終わらせなかった。博物館のアイデンティティを変えることに賛同を得る絶好の機会だと考えたのだ。






