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資金調達の成功率を高めるには
ベンチャー投資家は毎週、世界を変えることを約束するピッチ資料を大量に目にする。どれも美しくデザインされたスライドだが、実際に資金調達につながるピッチの割合は3%以下と、ハーバード大学の合格率よりも低い。この成功率の低さは、意図的にそう設計されているという点にも一因がある。ベンチャー投資家は基本的に選り好みが激しく、概して壮大なリターンをもたらす「ホームラン」案件しか求めていないのだ。その一方で、起業家たちが厳格なアプローチでピッチに臨んでいないのも事実だ。誰かの成功例やメンターの助言など、非科学的な情報を頼りにすることが多い。
筆者ら5人は最近、世界的なスタートアップ養成プログラム「クリエイティブ・ディストラクション・ラボ」(CDL)に、2012~2019年に提出された書面による提案書(計5334通)を分析した。その際、事業の有望性とピッチで使われる表現に関する長年の研究に基づき、「ピッチは『ステーキ』と『シズル』(ジュージュー焼ける音)という2つの魅力的な要素の組み合わせを強調する」という仮説を立てた。ここでいうステーキとは、ピッチの「肉」の部分であり、投下資本や特許、創業者の経験、重要な提携関係が含まれる。シズルとは、スタイルや、創業者の才覚(「傑出した」「説得力のある」「躍動的な」といった高揚的な表現)、そして具体性(「ドル」「事業」「購入者」といった実体的な言葉)のことだ。そのうえで、こうした言語の特徴を、CDLの審査委員会による合否判断と照らし合わせた。
その結果、起業家たちは、みずからの事業の実態に合った言葉を選ぶだけで、成功の可能性を大幅に高められることがわかった。具体的には、情熱的な表現のピッチが説得力を持つのは、すでに確たる証拠がある時だ。これに対して、具体的で詳細な内容のピッチが説得力を持つのは、確たる証拠がない時だけだ。
音楽のようなものだと考えるとよい。すでにフルオーケストラが演奏している時(つまり、すでに資金を調達していて、パートナーも確保ししていて、チームを構築している場合)は、過度に抑制を効かせた演奏をするよりも、クレッシェンドする(徐々に音を大きくする)ほうが盛り上がる。ピッチの場合は、エネルギーに満ちた情熱的な表現(「私たちは医療に地殻変動を起こそうとしている」)が、投資家の心をつかみ、注意を引く。
これに対して、1本のバイオリンしかない時(つまりプロトタイプが一つあるだけだったり、顧客から初期段階の聞き取り調査をしただけだったり、アイデアの草案しかなかったりする場合)、音量を最大限に上げても、空虚なほら話のように聞こえてしまう。このようにリソースが乏しい場合は、冷静で事実に基づいた説明(「パイロットユーザーはそれぞれ月1200ドルを支払っている。この金額は毎月平均58%のペースで伸びている」)のほうが信頼性が高く、成功する可能性が高い。
実際、リソースと一致した表現をすると、成功率は2%からほぼ35%に上昇することがわかった。
本稿では、このインサイトから導き出された3つの証拠に基づくルールを紹介しよう。起業家はこれに基づき、自作の文章で、または賢いAIプロンプトエンジニアリングを用いて、ピッチを調整するとよいだろう。
味付けをする前にステーキを見直せ
起業家はリソースが乏しいと、強烈に情熱的な言葉でそれを補いたくなるものだ。しかし、それは間違いだ。ステーキが貧弱な時(調達資金がほとんどなく、特許もなく、助言者もほとんどいない場合)、過剰な情熱(過度に激しく、感情的な表現)は成功率を約13%ポイント低下させる。投資家は、上辺を取り繕っただけであることをお見通しなのだ。






